発達障害やコミュニケーションが苦手な学生の就職支援をする上で大切にしていること
今回の記事では、私どもエンカレッジが企画運営している働くチカラPROJECTを題材に、発達障害のある学生やコミュニケーションが苦手な学生の就職を支援する上で大切にしていることについてお伝えしたいと思います。そういった学生の就職支援に携わられている皆さまのお役に立てれば幸いです。
働くチカラPROJECTは、発達障害のある学生やコミュニケーションが苦手な学生さんのための就活プロジェクトです。
就活本格期の学生を対象にした「就活のススメ」と、これから就活を始める方を対象にした「就活のハジメ」の2コースがあり、2012年の開始から2018年11月現在、360名の方にご参加いただいています。
2018年度の就活のススメは、2018年12月1日に修了しました。
今年度は23大学、31名の学生にご参加いただきました。
就活のススメでは、6月から12月までの間、月一回のペースで講座やグループワークを行っています(1回3時間)。
具体的には、以下のようなプログラムです。
各回の詳細は、以下にレポートしていますので、ぜひご覧ください。
💡「就活のススメ」開催レポート一覧💡
✅第1回 「オリエンテーション・先輩の話」
✅第2回 「ビジネスマナー講座」
✅第3回 「企業研究」
✅第4回 「面接対策(自己PR作成)講座」
✅第5回 「コミュニケーション講座」
✅第6回 「キャリアプランニング」
■学生はなぜ就活のススメに参加するのか?
2012年から長期休暇を利用した大学生のインターンシッププログラムから始まったこの事業も、今年で丸6年が経過しました。
2014年から現在の通年を通したプログラムになり、毎年その時々のリアルな学生のニーズをキャッチしながら講座のプログラムを変更するなど実施してきました。
しかし、上記のプログラム内容を見ていただくと、どこの大学でも行われている就職活動支援ではないか?と思われる方も多いかと思います。
では、就活のススメに参加した学生に「なぜこのプログラムに参加したのか」を尋ねてみると・・・
-学内の就活ガイダンスに出席したけれど、結局何をしたら良いのかわからずに終わってしまった
-学内の就活講座に参加したが、(他の学生を見て)逆に自信がなくなった
などといった声を聞くことがあります。
概念論や抽象論を理解すること苦手さのある学生や、学業との両立で精一杯の学生にとっては、「企業はリーダーシップのある学生を求めています!」「この波に乗り遅れないように早い時期から就活をはじめましょう!」などと伝えられると、逆に不安を煽ってしまうことがあるようです。
学内での就活講座においても、グループディスカッションでうまく話せなかったり、議論に参加できなかったことが失敗経験になり、自信を失くしてしまう学生もいます。失敗経験をうまく反骨精神に変えられる方や、他者からの適切なフィードバックがあれば本人の受け止め方もまた変わるのかもしれませんが、発達障害傾向のある学生は、それがうまく内省化できず、ただ自信を失くして終わってしまうこともあるようです。
■就活支援で大切にしている5つのポイント
就活のススメに参加している学生の参加動機は様々ですが、少なくともコミュニケーションに困っていたり、就職活動に不安がある、という点は、ほとんどの学生に共通していると言えます。
そんな学生たちを対象に、私たちが就活支援をするうえで、大切にしているポイントを5つにまとめてみました。
誰でも3時間も講義を聞き続けるのは疲れてしまいます。また、就活経験の少ない学生も多いので、経験のないビジネスマナーやコミュニケーションについて延々と話を聞いてばかりでは、イメージも湧きません。
そこで就活のススメでは、参加型のプログラムを取り入れています。
参加型のプログラムとはアクティブラーニングと似ていますが、大学で行うようなグループディスカッションはその一部に過ぎず、就活で必要なことをできるだけ具体的にし、報連相やメモの取り方のロールプレイ、具体的な身だしなみチェックや体系化されたコミュニケーショングループワーク、模擬面接など、毎回参加型のプログラムを取り入れています。
たとえば、ビジネスマナーの基本である身だしなみにおいて、「身だしなみは清潔感が大切です」と聞いたことがある方は多いと思います。しかし、その清潔感を私たちは一体何から感じ取っているのでしょうか?
たとえば、「シャツやズボン(スカート)にアイロンがかかっている」「目や耳に髪がかかっていない」「襟元や袖口が汚れていない」「自分のサイズに合った服を着ることができている」などが挙げられると思います。
具体的にどうしたらいいのか、を明らかにし、それをセルフチェックやペアでチェックを行い、“自分ごと”として捉えられるような工夫も大切にしています。
「学ぶ→実践する→ふりかえる」のプロセスを通して、学んだことをできるだけ身につけられるプログラム構成を考えています。
口頭で説明する内容と配布する資料はできるだけ同じにし、大事なところは書き込めるようなスタイルになっています。
図示やイラストを使い、可能な限り、視覚的にわかりやすい資料作成を心がけています。
たとえば・・・
📍相手の話を最後まで聞いてから自分の発言をする
📍相手の意見を理由なく否定しない(色んな考え方があることを尊重する)
📍SNSなどには個人がわかることは絶対に投稿しない
などです。他にもいくつかありますが、限られた時間の中で、できるだけ全員が安心して受講していただけるように、ルールを明文化しています。
私たちは、限られた時間の中で、全員が何かしらの気づきや学びがあってほしいと考えています。
月一回のプログラムですので、最初の頃はお互いどんな人かもわからず、関係性が出来ていない中でグループワークをすると、中には一方的に話し過ぎてしまったり、逆に一言も話せなかったり、否定的な発言が多くなってしまう方もいらっしゃいます。
そこをできるだけお互いを傷つけず安心して参加してもらえるように、4~5人の学生に対して、1人のスタッフがフォローできる体制を整えています。
そんな彼彼女らが勇気を出して参加してくれるプログラムですので、全員が安心して参加してもらえるように努めることは私たちの責務だと考えています。
挨拶や声かけはもちろんのこと、見守る部分とフォローに入る部分を見極めながら、学生の皆さんと接します。
時にはご本人に良くないことをフィードバックすることもあります。
そんなときも否定的な言い方で伝えるのではなく、できるだけ肯定的+好ましい行動を伝えます。
例1)グループワークで一方的に話しすぎてしまう方に対して
× 「○○さん、一方的に話しすぎですよ」
○ 「○○さんの意見はよく伝わってきました、次は他の方の意見も聞いてみませんか?」
例2)寝癖がある方に対して
× 「寝癖がすごいですね」
○ 「○○さん、髪がはねているように見えるので、一緒に鏡を見て確認をしましょう。」
(寝癖の直し方がわからなければ、その場で一緒に水で濡らして直したり、
インターネットや動画を見ながら一緒に確認することもあります)
「次回はこれを自宅でできるとバッチリですね!」
次回来られたときに、寝癖が無ければ、すかさず褒めることも忘れません。
上記は声かけの仕方の工夫例ですが、他にも全員が安心して参加してもらえるような気配りや環境整理を心がけています。
大学の就職・キャリア支援、障害学生支援のご担当者様へ
巻末には、発達障害のある学生に関わる全ての方に向けて、お役立ちできる基礎的な内容も盛り込みました。