【開催レポート】実践報告会in京都からエンカレッジの就労支援のあり方を見つめる

開催目的

株式会社エンカレッジは、2014年、京都の地に就労移行支援事業所の第1号拠点となるエンカレッジ京都を開設し、今年で6年目を迎えました。
お世話になっている皆さまへの日頃の感謝を込めて、また、今後一人でも多くの発達障害のある方が社会で活躍していくことを目的として、去る9月12日(木)に京都では初めての「実践報告会 in 京都」を開催しました!当日は、70名超の当事者の方、ご家族、大学、企業、支援機関などさまざまな関係者の方々にお集まりいただきました。
この記事では、実践報告会の内容をレポートしながら、エンカレッジの就労支援のあり方や大事にしている考え方についてダイジェストでお伝えしていきます。
当日来られなかった方はもちろん、ご参加いただいた皆さまにも振り返りとして活用していただける内容になっております。
発達障害のある若者をサポートする大学や支援機関の方にとっては今後の支援の参考に、企業の方にとっては発達障害のある若者を雇用する上でのご参考になれば、嬉しく思います。
目 次
▶ 家族とともに進める支援(エンカレッジ京都三条 安田 彩乃)
▶ ライフスタイルに合わせた支援(エンカレッジ京都三条 猪上 和志)
▶ ミライにつなげる支援(エンカレッジ京都 塩谷 哲彦)
<話題提供>
堀場製作所 井幡 純一 様
堀場エステック 北浦 宏和 様
当事者 Kさん
エンカレッジ京都三条 山﨑 隆志
<進行>
エンカレッジ京都三条 小谷 泰政

(1)エンカレッジ6年の歩みとこれから(代表取締役 窪 貴志)

エンカレッジ6年の歩み1
エンカレッジ6年の歩み2
 
エンカレッジは、2012年に発達障害学生のためのインターンシップ事業からスタートした。
その後、就労移行支援事業、ICT事業、大学支援事業など、活動の幅や地域、対象者が拡がっている。
エンカレッジの歩み
 
この6年間の活動の中で、いくつかの問題意識が芽生えた。その中に、手帳を持たない層への支援や在学中の学生への支援の必要性が挙げられる。また、手帳を持っていたとしても就活時に障害者雇用での就職を決めている学生はむしろ少数派であり、一般雇用で就職したいという学生も多く、一般雇用か?障害者雇用か?の狭間で揺れる学生もたくさんいる。
そういった学生の悩みをどうサポートするか?を考えた時に、雇用のあり方が課題として見えてきた。
たとえば、一般雇用の場合、強みや自己PR中心のマッチングとなり、弱みや配慮事項はオープンにしづらい。一方で障害者雇用の場合、働きやすさはあるものの、障害や配慮事項にフォーカスしており、強みに着目されにくい、といった課題がある。そこで、一般雇用か障害者雇用か、といった今ある枠組みに当てはめるのではなく、個人を中心に見ていく雇用のあり方(=「ダイバーシティ就活」)が必要ではないかと考えた。
ダイバーシティ就活
 
ダイバーシティ就活では、準備フェーズとマッチングフェーズの2段階がある。準備フェーズでは、学内の支援者が伴走しながら就活に必要な情報を蓄積・整理し、マッチングフェーズでは、一般雇用/障害者雇用問わず、さまざまな出口のパターンを用意する。そうすることで、障害学生のみならず、留年・休学歴のある学生や留学生、LGBTの学生、難病の学生など、就活に難しさを抱える学生が社会につながる流れをつくっていく。
さらに、学生に限らず、たとえば育児や介護、病気で働き方に制限のある方など、さまざまな理由で働きづらさを抱える方へと対象を拡げていきたいと考えている。それらを通して、「個をみて活かす働き方」を実現していきたい。

(2)実践報告『 安心とともに社会につなぐ!エンカレッジの就労支援 』

▶ 家族とともに進める支援(エンカレッジ京都三条 安田 彩乃)
家族とともに進める支援1
家族とともに進める支援2
 
□ケース
コミュニケーションに難しさのある利用者さん(男性)
ご本人はコミュニケーションが取れていると認識しているが、周囲の認識は異なるなど、特性として自己評価と他者評価のギャップがある方。
ご家族とご本人との間にもさまざまな認識にギャップのある状態だった。
□起こった課題と対応策
ご家族とエンカレッジとの間にも齟齬が発生してしまった。
対応策として…
・ご本人の希望に加えて、ご家族の想いや意向を適切に把握する。
→日々の面談でご家族の話や家での過ごし方をヒアリングし、ご本人とご家族の関係性を知る。
→何かあれば適宜こちらからも連絡する。
・懇談時には状況報告と今後の方針について具体的に共有する。
・齟齬が発生した際は寄り添う姿勢で丁寧に話を聞き、お互いの認識のズレをなくしていく。
といった関わりを通じて、ご家族とも共通認識を持って就職に向かえるよう工夫した。 採用が決まった後も、エンカレッジは支援者として、ご家族と本人(と企業)の間を取り持つ役割を担っている。
□ポイント
  • 支援者は本人だけでなく、その周囲にいる関係者(ご家族、企業担当者など)とのコミュニケーションを図り、共通認識を持って進められるように間を取り持つことが大事(コーディネーター役になる)。
  • 本人の安定就労のためには、家族からの適切なサポート(将来に向けての希望を引き出す、生活リズムの調整、金銭管理など)が重要。
▶ ライフスタイルに合わせた支援(エンカレッジ京都三条 猪上和志)
家族とともに進める支援2
ライフスタイルに合わせた支援
 
□ケース
ASDとうつ病の診断をお持ちの利用者さん(女性)
もともとは障害を理解し、自分らしく働きたいというニーズをお持ちだったが、利用途中でご結婚され、就労へのニーズにも変化が…。
→新たなニーズ:パートナーやそのご家族との安定安心した生活を大事にしたい。その上で、自分らしい「働く・暮らす」を実現したい。
□起こった課題と対応策
ニーズの変化に合わせて、支援方針を以下の通り変更した。
1)家族との生活を大切にした「暮らす」の実現
2)生活を中心にした、自分に合った「働く」の実現
3)自己理解を深め、特性を踏まえた工夫や対策を実践
□その後の経過
2回の実習を経て、ホテルでの宿泊関連事務に就職が決まった。
・本人の興味関心とのマッチ度(旅行が好き)
・相談しやすい職場環境(不安が高い方のため)

が功を奏して、本人も充実して仕事ができており、企業からも好評価。
また、仕事と家庭の両立もできており、生活にもメリハリが出ている。
→QOLの向上につながった。
□ポイント
  • ただ就職ができればいいわけではなく、就労後の生活もイメージして支援することが重要。
  • 本人のニーズを踏まえた働き方や特性への対策を一緒に考えていく。
▶ ミライにつなげる支援(エンカレッジ京都 塩谷哲彦)
ミライにつなげる支援1
ミライにつなげる支援2
 
□ケース
ADHDの診断をお持ちの利用者さん(女性)
通所時に明るく元気な挨拶ができるが、毎日のように欠席、遅刻していた。
□起こった課題と対応策
ご本人、ご家族、支援者それぞれが困りごとを抱えていた。
・ご本人:エンカレッジにはほぼ毎日遅刻する。働くイメージが持てず、通所への意欲が湧かない。
・ご家族(母親):実は欠席、遅刻をしていたり、実習に行っていないことが本人からは知らされない。どう対応すればいいか迷いがある。
・支援者:突然の欠席や事前連絡なしに遅刻するため、企業実習を調整するリスクが高くなる。
通常の支援であれば、遅刻を直すには?安定して通所するには?リスクの少ない就職先とは?と考えるところだが…
→本人のできることや強みにフォーカスし、本人に合った会社を見つけていく方向へ舵を切る。(弱みをカバーする方向から強みを活かす方向へ)
対応策として…
・通所可能な出勤日数や時間を調整
・遅刻、欠席は指摘せず、心身のヒアリングとできていることをフィードバック
・本人のできることや出勤時間から現実的に就労可能な求人を探し出す。
→1年以上に亘る地道な求人探しの甲斐もあり、自宅に近い職場で調理補助の求人を発見。
→調理補助業務は、過去にアルバイトで経験しており、本人が好きで集中して取り組める仕事であった。
→実習で好評価をいただき、就労へつながった。
□その後の経過
定着のために、就労後に想定される課題を事前に洗い出し、具体的な解決策の提案とサポート体制を整えた。
(ICTツールBoosterを活用して、本人・ご家族・企業担当者・支援者の4者が情報共有できる体制づくりなど)
→ご本人は体調管理や遅刻・欠勤への対策ができるようになった。企業側も体調不良があるものの、業務スピードも上がり、意欲を感じられている。
□ポイント
  • 本人の弱みやできないことではなく、強みやできることにフォーカスすることの大切さ。
  • 一方で特性上の難しさに対しては、関係者間でしっかりと情報共有ができる仕組みを整える。
  • 本人を信じ、勇気を持ち、地道に続けていくことが大事。
<3事例から分かる支援のポイント>
✅ 単に就職してもらうことが目的なのではなく、長期的な目線で本人が働き続けるにはどうすればいいか?をトータルに考えて対策する(家族との関わり、生活面、職場環境を整えることなど)
✅ 本人のニーズや強みをベースにして支援する(一人ひとりに合った働き方を実現できるよう支援する)

(3)実践報告&グループディスカッション
『強みと興味関心を活かして企業へつなぐ~株式会社堀場エステック 生産部での雇用事例~』

▶ 話題提供:Kさんの支援事例の報告(エンカレッジ京都三条 山﨑隆志)
支援事例1
支援事例2
 
□ケース
ASDの診断をお持ちのご利用者 Kさん
高校~大学と芸術系の学校で学んできており、手に職をつけたいという就職への希望を持っていた。
□起こった課題と対応策
エンカレッジの利用を始めてから、講座中に起こった出来事…講座の内容には関係のない「落書き」をしていた。
問1)もし支援する立場ならどうしますか?
🔶 エンカレッジ支援者の視点
通常であれば、注意して落書きをやめさせるところだが、視点を変えて、どんな落書きをしているのか?つまり、Kさんが作り出したモノを見ることにした。
→ただの落書きではなく、航空機やロボット、機械などをかなりの精密さで描いた絵だった。
→「これはすごい!むしろこの強みを活かしていくにはどうすればいいだろうか?」と考えた。
🔶 具体的な取り組み
エンカレッジで行っている家族ミーティングや望年会で、活動の様子を絵で記録してもらう。(仕事として依頼)
ご利用者さんの壮行会で、感動させるような作品を描いてほしいと依頼。
🔶 当時を振り返ってのKさんの感想
「(機械などを書いたことはあったが)人を描くのは初めてだったので上手くできるか不安もあったが、期待されて任されたからには頑張ろうと思った」
「実際に描いてみると思った以上の反響をもらえて自信につながった」
問2)「絵を描くのが上手い」という強みをどのように業務(実習)につなげていけばいいでしょうか?
🔶 エンカレッジ支援者の視点
「この技能で障害特性をカバーできないか?それによって職域を拡大できないか?」と考えた。
🔶 具体的な取り組み
Kさんは障害特性により、音声のインプットが苦手。電話のやりとりや口頭での指示には難しさがある。そこで、人から聴いた(大事な)ことを絵やイラストに置き替える練習を積むという支援計画を考えた。
→ご本人より、前職(建築関係の会社)で同じようなことをやっていたとの話が。Kさんが作成した図解付き作業手順書を見せてもらったところ、即業務に活かせそうな完成度であった。
問3)このような「素材」を見つけたとき、どのように業務(実習)につなげていけばいいでしょうか?
🔶 具体的な取り組み
図解付きの手書きの自己PRを作成した。その後のマッチングプロセスについては、堀場エステック様とKさんご本人より発表(後述)。
▶ 話題提供「堀場エステックにおける障がい者雇用の実態と雇用への取り組みについて」
(株式会社堀場製作所 グローバル人事部 マネジャー 井幡 純一 様)
障がい者雇用の実態と雇用への取り組み
 
□障がい者雇用の実態
堀場エステックでは、従業員数573名のうち、現在19名の障がい者を雇用している。
障害種別では、身体障がい者が11名(うち重度6名)、2名が精神障がい者(Kさんを含めて)。
雇用率は3.13%に達している(2019年7月1日時点)。
□雇用への取り組み
🔷 雇用に至るまでのプロセスは、【1】実習前面談→【2】インターンシップ(1回目/2週間)→【3】インターンシップ(2回目/2週間~1ヶ月)の3つのステップがあり、実習(インターンシップ)を2回に分けて長めに行っている。
特に2回目の実習では、本人が継続して業務を遂行することを前提として、必要以上に配慮しすぎないよう気をつけている。
🔷 雇用後のフォロー・連絡体制については、ご家族や支援機関とも連携して、何かあった際は早期に対応することを第一にしている。
🔷 障がい者雇用への理解者・サポーターの拡大を目指して、精神・発達障害者しごとサポーターの養成などをはじめとした、ノーマライゼーションの推進、健全な職場環境づくりを行っている。
▶ 話題提供:「実践報告~私の仕事紹介~」
(株式会社堀場エステック 生産本部 生産1部 VEGAチーム Kさん)
実践報告1
実践報告2
 
□堀場エステック入社までのプロセス
ステップ0:エンカレッジ京都三条にてパソコンスキルなどの訓練を行う。
ステップ1:2週間の実習で、ひと通りの作業内容の把握と、練習として組立作業を行う。
ステップ2:2ヶ月間の実習で、 実際の業務と同じ流れで、より実践的な作業として取り組む。
→2回の実習を経て、2018年10月に採用が決まった。
□入社後の業務
🔷 現在は組立作業の工程を任されている。(0.0何mmの歪みやずれも無いように行う非常に細かな作業)
🔷 +αで、改善活動の実施と社内報告を実施。日々の業務の気づきから得られたアイデアを役員に発表した。
→Kさんの図解力を活かし、プレゼン資料に手書きの図解を挿入。役員からの反応は上々。
□今後の抱負
🔶 Kさんご本人より
もともと妥協したくないタイプで、こだわりが強い。前職の時と比べると、現在は職人的なこだわりと協調性をいい塩梅に落とし込めているのではないかと感じている。
今の仕事は職人冥利につきる仕事。製品はまだまだ改善できると思っている。より良い性能を引き出せるよう、引き続きこだわって完成度を高めていきたい。
🔶 井幡様より
短期的には専門性を深めながら、他の製品群も含めてより広く・深く知ってもらいたい。中長期的には障害がありながら専門性を活かして働くロールモデルになってもらいたい。
<本事例から分かる支援のポイント>
✅ 本人の普段の何気ない行動や一見ネガティブに見える行動から本人の興味関心や強みを見出すことの重要性(支援者の見方次第でプラスにもマイナスにもなる)。
✅ 障害特性から来る弱みや働く上での難しさも強みでカバーできることもある。

(4)最後に・・・

最後までお読みいただき、ありがとうございます!実践報告会in京都の開催レポートはいかがでしたでしょうか?エンカレッジの就労支援のあり方や大事にしている考え方についてご理解いただき、発達障害のある方への関わり方、支援の仕方などについてお役立ちできていれば嬉しく思います。
エンカレッジでは、来春大阪でも実践報告会を開催予定です。今回とはまた異なる実践事例や新たな視点・考え方が出てくると思いますので、ぜひご参加いただければ幸いです。