これからできる!障害のある新社会人を受け入れるにあたり、職場でできる3つの工夫

さて、もうすぐ新しい年度が始まりますね。個人的に、4月は気分が高揚する好きな季節です。
この時期は、新卒社員はもちろんのこと、中途社員も多く入社される時期でもありますね。
入社される方々は期待に満ち溢れておられると思いますが、受け入れる側の職場の方々も、どんな方が入社してくるのかな?と心待ちにしておられるのではないかと思います。
私たちが普段かかわる障害のある方も期待しながら入社をされるわけですが、同時に、「本当に働けるのかな?」「職場でうまくいかないことはないだろうか?」といった不安が大きい方が多いのも特徴です。
実際にどの程度の社員が継続して働き続けられるかをデータで見てみると、障害のある社員の3カ月定着率は76.5%1年定着率は58.4%となっています(※1)。
一方で、日本全体の1年定着率は84.4%※2)ですから、障害のある社員の方が定着率の方がかなり低くなっていることが分かります。
お互いに期待していたにも関わらず、すぐに離職に至ってしまっては、障害のある社員、企業、双方にとって残念な結果になります。
ここではもう少し掘り下げて、障害のある社員の離職理由を見ていきたいと思います。
離職理由は、障害種別によっても異なりますが、以下のようなものの割合が多くなっています(※1)。
▶ 障害・病気のため
▶ 労働条件があわない
▶ 業務遂行上の課題あり
▶ 人間関係の悪化
このうち、特に、業務遂行上の課題や人間関係の悪化に関しては、受け入れる職場で起こる可能性が高く、職場でどのような受け入れの工夫を行うかが大切になってきます。
障害のある社員の障害特性や配慮願いの内容については事前に知らされていたり、申し出があったりすることも多いと思いますが、実際の仕事に入ってみると、想定と違う部分やうまく対応できないことが出てきたり、周囲との関係性がうまくいかなかったりこともあるでしょう。それが上述の離職理由にもつながってきます。
そういった状況を防ぐために、企業側はどんな工夫を行うと良いのでしょうか。3点、できる工夫を上げてみたいと思います。

職場環境や指示・指導の方法など、障害のある社員と周囲との関係性を継続的に調整する

「合理的配慮」という言葉がありますが、この中身は、「障害のある社員の申し出をもとに、本人と企業が話し合いながら働きやすい職場環境を調整して、合意形成する」という内容になります。
仮に採用段階で、丁寧にマッチングを行ったとしても、実際に雇用した後は、職場環境に慣れるまで様々な課題が発生することがあります。その際に上手く軌道修正をすることが大切になります。
特に採用当初は、ちょっとした声掛けや定期的な振り返りを行う中で、現状の業務内容や指示・指導方法で問題ないか、障害のある社員と周囲の両方に確認をしながら進めると良いでしょう。

また、少し個別の事例になりますが、障害のある社員から、障害について、上長のみに公開/部署のみに公開/全社に公開といった風に、公開範囲の希望が発生することがあります。しかし、公開範囲が上長のみであれば、他の社員は障害について分からず、適切な配慮が得られないことがあります。したがって、障害についての公開範囲について、最初に決めたままではなく、障害のある社員本人と話し合いながら定期的に見直し、より働きやすい状態を作り上げていくことも大切になるでしょう。

障害のある社員の悩みや不安を聞く機会を持つ

就職後の慣れない生活の中で、仕事内容や仕事の進め方など、都度、悩みや不安が発生する可能性があります。そんな時に、上司や周りの社員が、業務の振り返りやちょっとした悩みや不安を聞く機会を作ることで、障害のある社員本人の安心感につながります。その安心感が、何かあったときに早めに相談できる関係をつくり、定着率を高める結果にもつながります。

たとえば、1ヶ月に1回しっかりと話す時間をとるよりも、1日10分程度でいいので、こまめに話をする機会を作る方が、その効果が高いことが多いように思います。そういった時間を作ることが難しい場合は、日報を提出してもらい、その内容について一言声を掛ける(仕事を進める上で困っていることはないか、うまくできたことはあるか、など)だけでも有効です。これは、上司の方だけで行うのではなく、周囲の社員の方々にも協力してもらい、みんなが少しずつ気にかけている状態を作ることができると良いと思います。

社内の第三者や社外の支援機関を巻き込んでおく

雇用管理においては、職場の上長以外の第三者に関わってもらうことも有効です。 障害のある社員側から見ると、仕事への影響を懸念して上長には言いづらいことがあるかもしれませんし、逆に上長からは気になっていても伝えにくいこともあるかもしれません。
その際に、管理部門のスタッフや、障害のある社員本人のことを知っている外部の支援機関などに関わってもらっておくことで、複数の視点から課題を解決しやすくなります。
採用段階で支援機関に関与してもらっている場合は、その支援機関に相談に乗ってもらうのが良いでしょうし、もし、関わってもらっている支援機関がない場合は、以下のような支援機関の中から問い合わせてみるのも良いでしょう。
以上3つの工夫を参考にしていただき、障害のある社員、企業、双方が長く関係を築いてほしいと願っています。
 
※1:障害者の就業状況に関する調査研究 障害者職業総合センター(2017年4月)
※2:2019年雇用動向調査 厚生労働省
窪貴志
🖊 この記事を書いた人・監修
窪 貴志(くぼ たかし)
  • 2002年(株)UFJ総合研究所(現三菱UFJリサーチ&コンサルティング)にて、経営戦略立案、事業企画、新事業開発、人事制度構築などの経営コンサルティングに従事
  • 2010年から、企業の障害者雇用のコンサルティングや障害者福祉事業所の経営支援を実施
  • 2013年(株)エンカレッジを創業し、代表取締役に就任。障害のある求職者・学生の支援、企業の障害者雇用支援に取り組む
  • 年以上にわたり、大企業から中小企業まで幅広い企業の障害者雇用コンサルティングに携わり、日本でも有数の実績を保有
  • 法定雇用率の達成支援にとどまらず、ダイバーシティや経営的視点を踏まえた中長期的な障害者雇用の推進において高い評価を獲得
  • 障害者雇用戦略の立案、職域の開拓、特例子会社の設立支援、採用から定着に至るスキーム構築などの企画領域から、社内啓発や面接対応、実習のコーディネートといった実務支援まで、幅広いサービスを提供
  • 管理職や人事担当者向けの研修を中心に、企業、官公庁、自治体、大学などに向けてこれまで300件以上の研修を実施
  • 2023年から2025年にかけて、全中央省庁の障害者雇用担当者向け研修を3年連続で担当するなど、公的機関からの信頼を得ている
社長の独り言