【セミナーレポートvol.2】発達障害など就職が困難な学生と企業マッチングの支援プロジェクト

【vol.2】大妻女子大学共生社会文化研究所 設立記念セミナー
~発達障害など就職に困難を有する学生と企業とのマッチングを支援するプロジェクト~

この記事では、大妻女子大学共生社会文化研究所 設立記念セミナーの第二部 シンポジウムの内容をダイジェストでお送りします!本セミナーの趣旨や、村木厚子氏による記念講演の内容は、【開催レポートvol.1】をご覧ください。
第二部:シンポジウム「発達障害及びグレーゾーン学生を職業につなげる方策を考えよう~多摩から作り出す大学、企業、就労支援機関の連携~」
第二部では、はじめに4名の登壇者から話題提供がありました。障害学生支援、ジョブコーチ、障害者雇用企業、就労支援・学生と企業のマッチング支援それぞれの立場から発達障害のある学生の社会移行支援、企業とのマッチング、就職後の職場定着などについてお話しいただきました。最後に、ここまでで見えてきた多くの課題をどう整理し、解決していくかについて登壇者同士で意見交換を行いました。

1)話題提供:障害学生支援の立場から

ユニバーサルセンターは障害学生の合理的配慮の窓口になっており、学生本人や教職員の相談と学内外のコーディネートを主に担当している。

▶ 発達障害学生の現状

・障害者差別解消法により、大学での差別禁止と、国公立大学での合理的配慮義務化、私立大学での努力義務化が明示された。
・障害学生の割合:2018年度障害学生の数は全体の1%程度。内訳は身体障害が15%、病弱虚弱が30%、精神障害が26%、発達障害が18%。発達障害学生の内訳は、ASDが約6割、ADHDが約3割となっている。

▶ 発達障害学生の就労支援における困り感

学生
・学生自身の障害特性の自覚、受け止めの難しさ
キャリアセンター
・早期からの支援の難しさ
・専門的知識・スキルの不足
学内外連携
・大学内部署、大学外関係機関との連携の難しさ
・企業の理解促進と連携の難しさ
→手帳がある学生への支援は大学ではまだ始まったばかり。就労支援をどう充実させるかが喫緊の課題となっている。

▶ 発達障害学生の就労支援において必要な機会

・自己理解を深める機会、人に伝える機会
→働くうえでの得意と苦手、努力できることと必要な配慮などを知る機会、理解したうえで自分のことを相手に伝える機会が大学では少ない。
・仕事理解を深める機会
→障害者枠でのインターンなど体験できる機会が少ない。同じような立場の先輩やロールモデルを見つけにくい。
・進路選択を知る機会
→就活の流れや卒業後の相談先を知る機会が少ない。マッチングの機会や必要なスキルを身につける機会が少ない。
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学生がこれらの機会にアクセスできるかが重要だが、大学だけでは難しい。その中で、筑波大学と就労移行支援事業所が連携して就活をするなどの事例が出てきている。

▶ 発達障害学生の社会移行支援における3要素

(1)環境、アクセスできる機会を作ること
(2)丁寧な理解促進(自己理解・仕事理解)
(3)大学と地域とのネットワーク形成

2)話題提供:ジョブコーチの立場から

千田 若菜 氏(ながやまメンタルクリニック)

▶ 進路選択の多様性と揺れをどう支えるか?

・発達障害がある方の進路選択は幅広く多様であり、揺れ幅がある。揺れながら決めていく、その中で自己理解も進めていくのが就労のより良い形だが、現代社会ではそのようなゆとりや経験ができる機会が少ない状況でもある。
・仕事や環境との相性だけでなく、継続して働くうえでは様々な変化があるため、都度マッチングの調整が必要になる。調整のための選択肢の一つとしてジョブコーチが存在する。

▶ 発達障害学生の進路選択における具体的な方法とポイント

・経験して初めて分かることもある、を前提に
→仕組みとして可能性を狭めさせないことが重要。
・「~しかない」という選択はなるべくさせない。
→狭い思考の中で、他の選択肢の存在や意味をイメージしないまま後がない選択をさせないようにするための支援が必要。
・「無駄になりやすい経験」はなるべく避ける。
→大きな傷を負ってしまうため。他者からのフィードバックを得られにくいと“本人なりの経験”のみが蓄積してしまう。

3)話題提供:障害者雇用企業の立場から

林 美代子 氏(株式会社ベネッセビジネスメイト 人事総務部)

▶ 会社紹介

ベネッセグループの特例子会社。従業員数300名で障害者雇用率はグループで2.45%(障害種別では知的、精神、身体の順に多い)。この15年間、売上・仕事を増やしながら雇用も増やしてきた。障害者雇用の推進はもちろん、事業領域において市場競争力を持つ自立した会社を目指している。

▶ 発達障害のある方の採用と就労

・発達障害のある従業員は28名在籍。4年前と比べると他の種別より増加割合は多く、全体で1.2倍ほど増えている。平均年齢は29歳で、他の障害種別と比べると若いという特徴がある。
・入社時にどのような仕事がしたいかを聞いて実習・採用選考を進めており、配属先や担当業務は本人の特性や強みに合わせて決めている。
・大卒の場合、事務やIT、軽作業に従事している者が多い。発揮される強みとしては「決まったルールがある仕事を確実にできる」「プログラミングなど専門分野を持っている」などがある。
・中途採用には発達障害のある人が多い(新卒はここ3年で2名のみ)。中途の方はこれまでに様々な経験をして、障害を受容・理解したうえで応募に至っており、比較的私どもの仕事とマッチしやすいこと、反対に新卒はアルバイトなどの経験が少なく、働くイメージが湧いておらず、マッチングが難しいことが背景として挙げられる。就労体験を積む、本人の働く準備や自己理解を進めることが大切だと感じている。

▶ 実際の採用事例:IT系大卒者(広汎性発達障害)

RPAなどの開発・運用を担当。前職はIT系の一般雇用であったが環境が合わず退職、IT系の就労移行支援を経てご紹介いただいた。この分野は会社としても何とかしたいが、管理者以外で対応できない領域で困っていたため、入職していただいた。配慮は必要だが、可視化するとポテンシャルを発揮する方で、お客様が何で困っているかをしっかりと理解して、120%以上の提案ができる。ただ、120%以上になりがちなので支援者がバランスをとっている。

▶ 就労定着の現状と課題

定着率は90%以上と高いが、不調や休職から退職に至るケースもある。
✅ 本人:自分の障害特性を理解・受容しきれていないことがある。
✅ 企業:発達障害の多様な特性への対応力が課題である。
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特性に合わせた環境や強みを活かした仕事はつくり続けているが、合わせて無理なく続けられる働き方、本人に合った環境を考えていくことが必要と考える。

4)話題提供:就労支援・学生と企業のマッチング支援の立場から

窪 貴志(株式会社エンカレッジ 代表取締役)
株式会社エンカレッジ 代表取締役
 

▶ これまでの経験から得た課題意識

エンカレッジは発達障害のある大学生のインターン支援からスタート。これまでに500名ほどの大学生の就職をサポートしてきており、彼らの様々な困り感を知る機会が多かった。
課題意識(1) 就活の課題
就活に取り組んでからつまずく人もいるが、取り組む前につまずく人も多くいる。マッチングだけでなく、その手前をどう一緒に歩んでいくかが大事。また、就活の時期や方法がより多様化し柔軟になっていく中で、うまくいかない方も増えていると感じる。
課題意識(2) 就活の選択肢
新卒総合職は業務も幅広く、苦手領域とマッチしやすい。アルバイト雇用で社会に出ていく人も多くいるが、そこで離職を繰り返し、やがて採用されなくなり就労移行につながってくる。次に、新卒の障害者枠があるが、身体障害者がメインになっており、精神・発達障害の学生はなかなか決まらない。最後に、福祉サービスにつながる層や、社会につながらない層もいる。
課題意識(3) 障害学生の悩みに関する支援
障害学生は、一般雇用と障害者雇用とで揺れる。障害学生=障害者支援ではないため、そのプロセスを支えることが重要。

▶ 企業とのマッチングの取り組み

なぜ一般雇用と障害者雇用で迷うかというと、両者があまりにも異なるため。
・一般雇用:苦手をオープンにしないので配慮がなく、環境と合わないことも。しかし雇用条件や仕事内容が魅力である。
・障害者雇用:配慮が先立つことが多く、学生からは強みが評価されにくく見える。そのためこれまで頑張ってきたことが生かせないと悩む。
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・目指したい姿:双方の良い点を両立できる就活の形をつくれないか?強みと配慮の整理、第三者の紹介があれば、障害のある人や就活に不安がある人も包括的に社会につながる仕組みになると考えた。
・マッチングの仕組み:やり方が複数に亘ると大学にとってはやりにくくなってしまうので、ICTツールを活用して、途中まで同じプロセスを通ってマッチングできるようにしている。出口は一般雇用や障害者雇用で複数の選択肢を用意し、マッチングしなければ就労移行支援などのセーフティネットにつながる仕組み。

▶ 関西での取組事例:高等教育アクセシビリティプラットフォーム(HEAP)

学生34名、企業17社が参加し、うち11名が内定、17名が社会資源につながった。
□3つのマッチングゾーン
タイプ(1)マッチングしにくい層:就活にほとんど取り組めていない人。就活へのイメージがなく、焦りも感じていない層。
タイプ(2)事務系の障害者雇用:就職活動に継続的に取り組み、自己理解が深まっている学生。
タイプ(3)IT系の雇用:大学で専門的に学んできており、強みが明確な学生。強みが明確になっていることで企業の配慮を得やすい。

▶ 東名阪でのマッチング

今年度、以下の通り東名阪でマッチングイベントを実施予定。
関西:IT・技術系の一般雇用(11月27日)
IT・技術系の障害者雇用(2月)
障害者雇用全般(2月)
関東:多摩地域(2月)
IT・技術系の一般雇用/障害者雇用(2月)
東海:障害者雇用全般(2月)
障害者雇用で整理できる層もいるし、そこで整理する必要のない層もいる。うまくいかない層はマッチングの手前、学内での支援を検討することになるのではないか。そして、行政などでもこの仕組みが検討され、従来の就活の仕組みにはマッチしなかった層を社会につないでいきたい。

▶ まとめ:今後必要なこと

1)学生ニーズに基づく、適度な大きさのネットワーク作り
2)市場(採用)ニーズに基づく、社会移行の選択肢の多様性
3)アセスメントの共通言語化
4)学生に対する、継続的な学内支援モデル
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多様性のある職場づくりのきっかけが発達障害であって、共生社会というテーマになっていけばと思う。

5)登壇者での意見交換

登壇者での意見交換
 
村木:学生の“揺れ”に付き合いながら、無駄になりやすい経験をさせないためには、自己理解と働くイメージが大事だと思うが、大学でできることや大学から見て事前にやっておいて欲しいことは?大学がどことつながると良いと思うか。
工藤:同じ診断を受けていても一人ひとりの特性が異なるため、支援はオーダーメイドになる。特に性格の部分での支援が重要になり、身だしなみや整理整頓のようなライフスキルの支援は大学に来る前からあると良いと思う。そこをクリアした人には働く体験が必要。一般の障害者枠で精神障害者を雇用する、活躍させるイメージを企業もまだ持っていないので、インターンで双方が知ることのできる機会が必要。
千田:一般雇用と障害者雇用を行き来する人も増えているが、その結果、迷走してしまうことも。合理的配慮の義務化などによる変化は起きており、就業途中で手帳を取得しても対応すること、クローズ就労を支援することも増えてきている。
林:大学での支援になるのか分からないが、ライフスキルは重要だと考える。学生に働く経験をさせる取り組みを行う大学も増えているが、うまくいかないケースでは学生のライフスキルが不十分であることが挙げられるのではないか。
窪:アルバイトなど働く経験自体ない人も多いが、経験したとしてもその行為だけが記憶に残っていることもある(経験したが、大変だったという感想で終わるなど)。そこでの「気づき」を次につなげることが重要。
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村木:障害学生の就職は、一般雇用と障害者雇用の二つの道筋に分かれている。福祉と雇用どちらの門を叩くかで道が分かれてしまうと言ったが、一般と障害いずれも厳しい選択になる。皆が強みを生かすことができていて配慮もある、そういう仕組みを作るにはどうするか?どういうステップがあるといいか?
窪:障害者雇用は配慮に目が行きがちだが、もっと市場ニーズを見ても良いのでは。たとえば、ITの有効求人倍率人を見ると人手不足が顕著。つまり、配慮が得られやすい環境でもあるのではないか。
小川:私は福祉側の人間なので、きちんと配慮ができる特例子会社に行けば何とかなると感じてしまい、「障害を理解してください、弱みを受け止めてください、そうしたら社会は支援できますよ」というプロセスになってしまう。一方、大学の立場に身を置くと、その道には合わない学生がおり、どう支援しようかと迷う。ここが本プロジェクトのメインテーマと感じている。
障害者雇用でない場合、困難さを抱える学生を雇用するモチベーションのある企業の幅や選択肢が広くなっている必要があると思うが、どうか?
窪:一つの選択肢としては技術系職種、もう一つは製造系職種で、手先が器用な芸術系の方がマッチすると感じている。そういった人がメーカーの雇用現場にハマるパターンがある。ここを増やしたいが、学生が選びにくい企業になりがちなことが課題として残っている。
小川:障害者雇用が前提になる特例子会社において、強みに着目した仕事を創出できた経験について企業側のお話を聞きたい。
林:決まった仕事を忘れずにきちんとやり続ける特性のある人がいる。たとえば、窓口業務で、返却が必要なものを管理するうえでその特性が生きた例がある。他にも、教材製作で手先が器用な特性が生きる例もある。実際に仕事を分解していくと、強みを活かした業務が新たに見えてくる。
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小川:今日様々な課題が見えてきたが、今後の方向性の示唆として「さあどうしたらいい?」を最後に一言いただきたい。
工藤:学内で障害支援をしていると支援者が消耗していると感じる。対応の不安など、大学だけで抱えるのではなく、大学同士や地域、社会全体で支えることが必要。
千田:その時々での選択だけでなく、長期的な視点で考えることが重要と感じる。選んだことによって無駄な経験にならないようにするためには、定点的に観測できる、伴走的に一緒に経験することが大事。医療的に見ると、就職のマッチングだけでなく、その先のキャリアまで考えられると良いと思う。
林:大学生の就職までの道筋として、どういう仕事があるのか、どういう強みを生かせるのかなどまだまだ開示できていない状況がある。企業側が、仕事をするうえでのワクワクや長く続けていけるキャリアを考えることが課題と感じている。
窪:取り組みを始めたことにより、学生一人ひとりの顔が見えてきた。そこで思ったのは、学生の困り感を適切に分解することが大切だということ。たとえば“グレーゾーン”のようなカテゴリ分けは社会がつくったことであって、本来は学生本人の視点に立って困り感を整理することを考えた方が良いと思う。
大学はユニバーサルデザインの考え方の方が入りやすいが、福祉は個人支援の考え方になる。その理念のバランスをどう取るかを考えると良いかもしれない。たとえば、病弱などの学生支援がテーマになった時に、障害支援が応用できるか。今後大学で起こり得る状況をイメージしながら仕組みを作っていくこともあるかと思う。

6)さいごに

以上、大妻女子大学共生社会文化研究所 設立記念セミナーの開催レポートでした。エンカレッジでは、配慮は必要だけど、強みや専門性を生かして働きたい学生と、個をみて活かす採用を考える企業とのマッチングをサポートするプロジェクト「ダイバーシティ就活」を今年度よりスタートしました。
大妻女子大学共生社会研究所「就職に困難を有する学生と企業とのマッチングを支援するプロジェクト」への参画や、関東の有名大学などとの連携を通して、今後、学生と企業とのマッチングイベントを関東でも複数開催していく予定です。
本プロジェクトにご興味をお持ちいただいた方は、ぜひお気軽にご連絡・ご相談ください。
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