6月24日(水)に「DAY3:職域開拓3.0 これからの仕事を創り出す」を開催しました!今回も、全国から約70名の障害者雇用に携わる皆様にご参加いただきました。
この記事では、P&G Japan様と関西学院大学様が協働で推進している「超短時間雇用」の実践事例を中心に、重要なポイントをピックアップしてまとめました。
当日参加できなかった方はもちろん、参加された方も振り返り用としてご活用いただければ幸いです。 また、ウェビナー当日の動画も配信しております。視聴をご希望の方は、以下よりお申し込みください!
1)話題提供①:関西学院大学 総合支援センター キャンパス自立支援室 塚田吉登様
▶ 1-1)関西学院大学における障がい学生支援状況
・卒業生の進路決定状況は、就職(オープン就労/クローズ就労)だけでなく、就労移行支援事業やその他の社会資源の利用、院進学、留年・卒業延期など様々。
・障害学生と一口に言っても、身体、精神、発達、難病など多様なニーズの学生が在籍している。
✅ フルタイムは可能だが、転勤が困難など、環境に配慮が必要な学生
✅ フルタイムは可能だが、業務の限定などの配慮が必要な学生
✅ 短時間でかつ、業務が限定されるなどの配慮が必要な学生
▶ 1-2)日本型雇用にある壁:既存の働き方の課題
→自身の「職務」は不明確だが、労働時間だけは確定している。
・特定分野でできることがあっても、長時間働けなかったり、何かできないことがある人は雇用されにくい。
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これらは障害等のある人々が雇用参加する上で厚い壁(社会的障壁)になっている
▶ 1-3)障害者雇用施策に残された問題と解決に向けた新しい働き方
・全か無か:メインストリーム以外のどこか(生活保護など)へ行かざるを得ない
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これらの問題を解決する新しい働き方「超短時間雇用(IDEAモデル)」
・業務集中が起きている特定の部署・人員の担当業務を定義・明確化
・業務内容と必要時間を定義し、その業務が遂行できる労働者を採用して割り当てる
(業務切り出しから雇用への細かいプロセスは動画をご覧ください)
「労働時間ありきの雇用」でなく、「遂行できる業務ありきの雇用」(いわゆるジョブ型雇用の一つ)
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東京大学 先端科学技術研究センター 准教授 近藤武夫氏が提唱する「IDEAモデル」をH29年4月より神戸市でスタート(神戸市「短時間雇用創出事業」)
詳しくはこちら
▶ 1-4)障害のある学生の就労に向けた課題とチャレンジ
・時間はあっても労働の機会になかなか触れられない。
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新たな事例として、大学生の「超短時間雇用」導入にチャレンジ
(通常の就労ができない障害のある学生に親和性が高い雇用のあり方)
(英語の翻訳コンテストで入賞する実力を持っている)
→英語力の高さを活かした雇用を生み出せないかということで、在学中からの翻訳業務での就労に向けてマッチング中。
2)話題提供②:P&GJapan 人事統括本部 マネージャー 松下結妃様
▶ 2-1)P&Gの障害者活用の考え方
・より幅広いダイバーシティを活かせる環境をつくるため、性自認や障害特性などにも着目。
→それぞれの違いや個性を活かすことが、社員全員のパフォーマンスを最大化することにつながる。
ダイバーシティ&インクルージョンはCSRではなく、「経営戦略」と位置づけている。
▶ 2-2)実際の障害者雇用の概要
②ダイバーシティ&インクルージョンの実現
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・①は一定達成できているが、②を達成するためには、SSC外でも障がい者雇用を推進する必要がある。
・現在は障害のある社員はSSCに集中しているが、一般の社員と肩を並べて働ける環境をつくることを目指し、障害のある社員のポジションづくりを推進している。
▶ 2-3)超短時間雇用導入の背景:企業側/労働者側のメリット
社員がやらなくてもいい仕事で社員の労働時間が増加している。
→派遣社員フルタイム分ほどの仕事量はないが、プロの業務委託契約業者に依頼すると高額になるため、今いる社員で賄ってしまっていた。
②ダイバーシティ&インクルージョンの実現に寄与
SSC外で社員が障害を持つ社員と協働し、必要な配慮事項について学びを得る機会を作れないか、という課題意識があった。
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パートタイマー × 障がい者 = 超短時間雇用であれば、①と②の実現につながる!
・職場復帰の前に短時間での雇用を探したい。
・重度障害のため、介助者なしの雇用は困難だが、就業経験を得たい。
→就業経験を得にくい障害学生との親和性も高い。
②待遇向上
・B型就労移行支援事業所の収入だけでは心もとないので、 併用して就業したい(神戸市では超短時間雇用との併用が可能)。
▶ 2-4)導入への具体的なステップ
2. 業務切り出し → 指揮命令者・人事部上層の承認獲得
3. 候補者募集 → 面談
4. 無給でのインターンシップ
5. 契約書作成・入社
→繁忙期〜閑散期であまり差がなく、安定的に供給できる業務量かどうか
2. 業務結果が与える影響
→ミスをした時などに社員がカバーできる範囲の影響力かどうか
3. 納期の許容度
→急に納期を変更する必要がない業務かどうか
4. 業務指揮の複雑性や頻度
→業務指揮を頻繁にする必要がなく、シンプルな業務指揮で済むかどうか
5. バックアップ体制
→雇用した人が勤務できないことがあってもバックアップできるかどうか
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これらを踏まえて、「翻訳作業」、「社内広報資料作成・ツール整備」の業務を切り出し、超短時間雇用で2名を受入
業務内容・マニュアルの有無、納期・業務量、労働時間・時給、必要なスキル・経験など。
②候補者紹介
履歴書だけでなく、成果物の共有など細かく教えてもらう。
③本人と企業、支援機関と3者で面談
労働条件の確認や不安事項の細かな共有。
▶ 2-5)今後の展望
候補者:学生から中途まで受け入れ(※)
中途は、いずれフルタイムで就業することを目指したリハビリ、ステップアップの機会になる。企業としては、フルタイムで働く可能性のある方をインハウスで育成する機会にする。
3)質疑応答
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障害者雇用を行う目的として、多くの企業では法定雇用率の達成があると思いますが、法定雇用率にはカウントされない超短時間雇用を導入するにあたって、社内でハードルはありませんでしたか?
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(松下様)
経営陣に予算獲得のための説得をするには、ダイバーシティ&インクルージョンの実現という目的だけでは弱いと考えた。業務切り出しを行った上で、生産性向上のメリットを数字で証明した(今いくらかかっている仕事がいくらまで削減できますなど)。 -
P&G様での障害のある社員の在宅での就業はどうなっていますか?
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(松下様)
コロナ以前は在宅勤務、リモートワークは会社として行っていなかった。
コロナ後は、それぞれの業務に対して、
①出社しなくてもできる/出社しないとできない業務か
②在宅で勤務できる環境が整っているかどうか
で業務を振り分けし、その上で在宅での就業ができそうな社員には、
③コミュニケーション上の配慮やリモートワークのコツなどに関する研修を行う
ことにより、在宅での就業を実現できた。 -
超短時間雇用では、社内の人的資源(ex.管理職によるキャリアコーチングなど)の提供は必要になるでしょうか?また、その点で他の勤務形態の社員の方々とギャップがあるのでしょうか?
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(松下様)
障害者組織に対しては、人事部社員が担当に就いて、管理職と一緒にフォローしており、全社的な管理職研修も行っている(障害特性への理解、部下への対応、合理的配慮のポイントなど)。
超短時間雇用の場合、通常の障害者雇用とはキャリアパスは異なってくる。
(塚田様)
多くの企業の場合、超短時間雇用では通常の定着支援は必要でないことが多い。職務定義をしっかり行い、その業務ができる人とマッチングすることが前提のため、実際に職場に入って業務を行った時に、業務と人の齟齬が生まれにくいから。 -
超短時間雇用を続けていく中で、労働者側ももっとできる/企業側ももっとやってほしいとなった場合、キャリアアップの可能性はありますか?また、そのために必要なことは何でしょうか?
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(塚田様) 実際に仕事をやっていくうちに、業務や環境への慣れによって、できる業務の幅やスピードが当初の想定より広がることはよくある。
ただ、もっとできることを増やしていこうとなった際に、業務量や時間数がいきなり増えると、急にしんどくなってしまい、会社に行けなくなったり、できていた業務ができなくなったりした人もいた。
本人の負荷になりすぎないようバランスを見ながら、会社にとって必要な業務をもう一度切り出して、今の業務に新しい業務をくっつけて任せていくと良い。 -
一定期間で業務が無くなる可能性もあると思いますが、具体的にどのようなサポートをしているのでしょうか?
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(松下様)
お任せしたい業務ありきの雇用なので、ボジションがなくなるのであれば別の業務切り出しをするしかない。採用する方には、もし業務がなくなった場合は別の業務をお任せする可能性があることや、どうしても双方のニーズがマッチしない場合はそのポジション自体がなくなることなどを、誤解がないように始めから率直に伝えるようにしている。
(塚田様)
最初から契約期間が限られている業務でマッチングすることもある。
4)ご参加者の感想
障がい者雇用という観点だけでなく、超短時間就業=時間的制約のある方の雇用機会(シングルマザーなど)、また企業にとって生産性の向上にも貢献できる、と考えると今後の採用のあり方について今までよりも視野を広げて考えることが出来そうであると感じた。
JOBがあって雇用がある、JOBがなくなった際のことも最初の段階でしっかり契約に盛り込んでおくことが重要というアドバイスは、すとんと腹落ちしました。
雇用率を上げるには週最低20時間勤務となることから、弊社規模では業務の切り出しが難しいと考えていましたが、トライアルとして一日1時間からのスタートなら可能ではないかと少し道が開けた気がします。
5)次回以降の「コロナ時代の障害者雇用3.0」ご案内
しかし、新卒採用の対象になる障害学生はまだまだ少なく、就職活動に困難さを抱える学生が多いのが現状です。さらに、コロナの影響で彼らの就職活動はさらに厳しいものになるかもしれません。
そこで、京都大学で障害学生支援を行う村田准教授、ソニー株式会社や特例子会社のソニー・太陽株式会社でダイバーシティ推進を担当する森様をお呼びし、高等教育機関における障害学生の就職状況や、障害者雇用における新卒採用の可能性、入社後も継続的に活躍するために必要なことを、大学・企業両方の視点から考えていきます。
・新卒での障害者雇用を行っている/検討している人事担当者、責任者 など
ソニー株式会社 人事センター ダイバーシティ&エンゲージメント推進部、ソニー・太陽株式会社 人事総務部/D&I推進室 森慎吾 様
(慶應義塾大学 中島隆信教授のご登壇が決定!ぜひ詳細をご覧ください)