障害者雇用のススメ方 その3
定着サポートにおける5つの留意点

さて、前回に引き続き、企業の方向け障害者雇用のススメ方 3回目です。
障害者の雇用に限りませんが、人材は雇用して終わりではありません。
雇用後、会社の貴重な戦力として長く、安定して活躍いただくことが大切であることに異論はないかと思います。
昨今、障害者の定着サポートの重要性がクローズアップされていますので、今回は、その具体的な取り組みや、定着サポートの留意点について考えてみたいと思います。

定着サポートの具体的な取り組み(例)

定着サポートの具体的な取り組みとして、例えば以下のようなものがあります。
□職場環境や指示・指導の方法など、障害者本人と周囲との関係性を調整する
採用段階で、丁寧にマッチングを行ったとしても、実際に雇用した後は、職場環境に慣れるまで様々な課題が発生する可能性があります。
想定していた指示・指導方法で上手く伝わらないことがあったり、周囲とのコミュニケーションにより、障害者本人も周囲も疲れてしまったりといった課題です。
ですから、その際に上手く軌道修正をすることが大切になります。
特に採用当初は、定期的に振り返りを行い、現状の業務内容や指示・指導方法で問題ないか、障害者本人と周囲の両方に確認をしながら進めると良いでしょう。
□障害者の悩みや不安相談を行う
就職後の慣れない生活の中で、仕事面はもちろんのこと、生活面も含めて障害者本人の負担が大きくなることもあります。
採用当初は、業務の振り返りと共に、障害者本人の生活面も含めて悩みや課題の聞き取りを行い、必要に応じて課題解決を行うことが大切になります。
□会社としての雇用管理体制を考える
雇用管理において、職場の上長以外の第三者に関わってもらうことも有効です。 障害者側から見ると、仕事への影響を懸念して上長には言いづらいことがあるかもしれませんし、逆に上長から伝えにくいこともあるかもしれません。
その際に、管理部門のスタッフや、障害者本人のことを知っている外部の支援機関などに関わってもらっておくことで、複数の視点から課題を解決しやすくなります。
また、直接的な指揮命令系統は雇用現場にありますが、雇用現場だけでは対応しにくいこともあります。
例えば、現場の受入前研修、産業医や保健士やカウンセラー等との調整、配慮に必要なスペースや備品の確保、職域開拓の方法についてのサポート、必要に応じた社内制度改定などです。
具体的な課題が発生した時に、誰がどのように対応するのかを決めておくことで、障害者本人にとっても安心ですし、組織としてもリスク管理が行いやすくなります。

定着サポートにおける5つの留意点

なお、企業における定着サポートにおいて、留意したほうが良いのではないかと思われる5つの視点をお示ししたいと思います。
(1)課題が発生しやすいタイミングを理解しておく
定着サポートを行う中で、課題が発生しやすいタイミングがあります。1つ目は就職したての時です。
障害者本人が職場に慣れ、周囲が障害者本人の事を理解するのに一定の時間がかかりますので、慣れるまでは継続的に関わることが有効です。

もう1つは、障害者本人の変化や周囲の変化が発生するタイミングです。
例えば、
・仕事でいえば、業務内容が変わった、上司が変わった、職場が変わった
・生活でいえば、一人暮らしを始めた、結婚した(その結果、お金が必要になった)

といったことが挙げられます。
変化に影響を受けやすい障害者も多いので、変化があったタイミングでは、様子見をしていただいて、その環境に慣れていくかどうかを見極めて頂くことが大切になります。
(2)急ぎすぎない
企業から見れば、採用後すぐに即戦力として活躍していただくことが理想かもしれません。
しかし、実際には時間をかけて業務を覚え、一度覚えたら安定して働くことができる障害者も多くいます。長期間かけて育てていくという視点を持つことで、長く戦力として活躍できる状態を目指してほしいと思います。
(3)自己評価と他者評価をすり合わせる
自己評価と他者評価のズレが大きいほど、職場で上手くいかないことが増えます。この点で苦しむ障害者も多いです。
具体的に職場で現れる課題として、良くない状況に気づかず問題が大きくなってしまう、周囲の助言を受け入れられない、などがあります。
障害者本人の自己理解を深めるためには、信頼関係を構築したうえで、具体的な経験と客観的なフィードバックを行いながら、自己評価と他者評価のズレをなくしていくことが、障害者本人にとっても、周囲にとっても大切になるでしょう。
(4)課題を階層化して考える
職場で発生した課題の原因として様々な視点が考えられます。
・障害者本人の意識やスキルの面から発生している課題
・周囲とのコミュニケーション不足や理解不足から発生している課題
・組織全体としての配置や業務内容のミスマッチや環境が合わないことから発生する課題

などです。
下に行くほど、より組織として対応すべき課題になります。
もちろん障害者本人の努力によって解決すべき問題もあると思いますが、環境面の課題解決や周囲の社員との関係性を調整することにより解決する課題も多くあり、その視点から考えることが大切です。
このように複数の視点から考えることにより、取り得る選択肢が増えますので、視点を変えながら課題解決を図ることで、よりよい解決が実現できる可能性が高くなります。
(5)キャリアパスを考える
一般社員も障害者雇用で入社した社員も、はじめは与えられた業務を手順通り進め、上司の指示をきちんと守り、正確かつ効率的に仕事をすることが求められます。
障害者雇用においては、はじめの職域がスタートであり、ゴールでもあることが多く、その後のキャリアアップが見込めないこともあります。
その背景には、企業側もこれまでに障害者の雇用経験が少なく、社内制度が整っていないことや、採用時に障害者本人の強みや専門性、配慮事項等がはっきりと分からず、職域を用意できないこと、他の社員との比較の中でキャリアアップができないといったことが考えられます。
会社の事情によってそれぞれですので一概には言えませんが、障害者本人がやる気を持ち続けられるように、業務の精度やスピードを高めることを求めたり、業務の幅を増やしたり、業務時間を増やしたり、といった取り組みを継続的に盛り込んでいくことも一つのやり方かもしれません。
以上のように、採用後も継続した取り組みを行っていただくことによって、障害者が戦力として長く働き続けていただけることを願っています。
社長の独り言