障害者の転職ニーズからみる、企業への期待

私たちは、エンカレッジの立ち上げ後、数百名単位で発達障害者の就職支援に関わってきました。
それぞれの方の勤務状況をみると、
・本人も企業も不満がなく、やりがいを持って長く働いているケース
・さらに、業務内容や給与、契約形態など、キャリアアップを果たしているケース
・紆余曲折あるものの、お互い、またはどちらかの歩み寄りにより、雇用が継続しているケース
・残念ながら雇用が継続せず退職してしまったケース

などさまざまです。
勤務状況全体を見る中で、今後ニーズが大きく顕在化しそうなケースがあります。
それが「転職ニーズ」です。

大きく変化した精神・発達障害者の雇用環境

ここ数年~10年の間に、精神・発達障害者の雇用環境は大きく変わりました。
精神・発達障害者の人数の増加(顕在化)、障害者の雇用義務化等により、企業で雇用される発達障害・精神障害者の人数は増加の一途を辿っています。
それに伴い、業務内容の多様化、給与をはじめとした労働条件の向上、勤務形態の多様化(在宅勤務など)、キャリアアップ制度の導入等が進んできました。
精神・発達障害者にとっての選択肢や処遇改善が進みつつあることは大変喜ばしい事であり、私たちもどんどんそのような動きをサポートしていきたいと考えています。
一方で、先行的に精神・発達障害者の雇用に取り組んできた企業の中には、業務内容や待遇が全く変わらない企業も多く、後発企業と比較して相対的に本人にとっての処遇が悪くなることもあります。
例えば、障害者を採用してから、数年間、給与が1円も上がらず、業務内容も全く変わらない企業があります。
障害者も、日々生活していれば、仕事において成長もしたいし、生活面でも一人暮らしもしたい、家族も持ちたい、というニーズは、当たり前のように発生しますが、このままの状態で今後大丈夫だろうか?と不安になることもあるでしょう。
しかも、周りを見れば、業務内容面でも待遇面でも魅力的に見える企業が増えてきている。
そうなると転職できないかと考えるのは、自然な流れのように思えます。

個人の能力・付加価値を最大化する障害者雇用を

給与が上がらないことを否定したいわけではありません。
給与が変わらなくても本人と信頼関係を築き、出来る業務を増やし、色々と困難さが発生しても、雇用継続を目指すスタンスも素晴らしいと思いますし、そうしたスタンスの企業だからこそ輝ける障害者も数多くおられます。
一方で、無条件に「障害者だから業務内容の変化も必要ないし、待遇も一切変えなくてもよい」と考えている企業にお願いしたいのは、自社でどんな雇用を実現するのか改めて考えてみて欲しいなと思っています。
例えば、
・会社の事情で待遇や勤務形態は変えられないけれど、しっかりと戦力化して雇用継続しますよ
・待遇は変えられないので、戦力化した結果、本人が望めばキャリアアップ転職は認めていきますよ
・障害者でも、能力や成果に応じて、一般社員同様きちんと処遇をUPしていきますよ
・勤務時間や勤務場所など、働きやすい環境を準備して、長期間働けるようにしますよ

といった形です。
会社組織として、まずは社会的責任としての雇用率に目が行くこと、出来るだけ手間やコストがかからない雇用を実現したいという考えもあるとは思いますが、障害者雇用には、社会全体として、各個人の持つ能力や付加価値を最大化する役割もあると個人的には考えています。
本人の能力や成果に応じて、業務や処遇やUPできる企業も素晴らしいですが、自社では処遇改善できない企業の場合でも、社会全体として障害者の戦力化・能力の最大化が目指せたら素敵だなと思います。
窪貴志
🖊 この記事を書いた人・監修
窪 貴志(くぼ たかし)
  • 2002年(株)UFJ総合研究所(現三菱UFJリサーチ&コンサルティング)にて、経営戦略立案、事業企画、新事業開発、人事制度構築などの経営コンサルティングに従事
  • 2010年から、企業の障害者雇用のコンサルティングや障害者福祉事業所の経営支援を実施
  • 2013年(株)エンカレッジを創業し、代表取締役に就任。障害のある求職者・学生の支援、企業の障害者雇用支援に取り組む
  • 年以上にわたり、大企業から中小企業まで幅広い企業の障害者雇用コンサルティングに携わり、日本でも有数の実績を保有
  • 法定雇用率の達成支援にとどまらず、ダイバーシティや経営的視点を踏まえた中長期的な障害者雇用の推進において高い評価を獲得
  • 障害者雇用戦略の立案、職域の開拓、特例子会社の設立支援、採用から定着に至るスキーム構築などの企画領域から、社内啓発や面接対応、実習のコーディネートといった実務支援まで、幅広いサービスを提供
  • 管理職や人事担当者向けの研修を中心に、企業、官公庁、自治体、大学などに向けてこれまで300件以上の研修を実施
  • 2023年から2025年にかけて、全中央省庁の障害者雇用担当者向け研修を3年連続で担当するなど、公的機関からの信頼を得ている
社長の独り言