最近、企業から、ある相談をいただくことが増えた。本人、または、周囲が困りごとを抱えているものの、障害者手帳を持たない方々に対してどのように接していけばよいのか、という相談である。
そもそも、障害者であるかどうかは、明確に真っ二つに分かれるわけではなく、継続的に日常生活や社会生活に制限を受ける状態にある人たちに対して、一定の線を引き、その線を超えた人たちを障害者として認定するわけである。なので、障害者手帳があるから困り度が100であり、障害者手帳がないから困り度が0である、ということではない。
したがって、障害者手帳を持たない方の中にも困り度が大きい方がいるのは当然のことだ。彼らは障害者雇用枠で採用されたわけではなく、通常採用(一般雇用)の中で採用されている。そして、その中には、傍目には分かりにくい精神障害・発達障害の方も多い。
企業側から見れば、上記のような障害者手帳は持たないものの、発達障害が疑われる方(業界用語でいうと、グレーゾーンの方)が増えており、職場の中で課題が発生している。そして、そういった方々の雇用管理に企業は頭を悩ませている。
なぜこのような相談が最近増えているかを考えてみれば、たとえば、以下のようなことが挙げられる。
障害者手帳を持たない方への対応の企業相談が増える理由
【1】職務の変化
現在は、一つのことを集中して行うような職務が減っており、多能工的な仕事の仕方、複雑なコミュニケーションが必要な仕事が増えている。一つの業務であれば問題が表面化しないこともあるが、複雑な環境下では上手く力を発揮できないこともある。かといって、一人ひとりの特性に応じて業務を考えるようなことが行われておらず、業務のミスマッチが発生しやすくなっている。
【2】売り手市場
複数の大学関係者の話によると、最近の売り手市場もあり、昔は就職が難しいと思われていた層が、直近ではどんどん就職しているのだそうだ。その中には、発達障害の診断がある方、発達障害が疑われる方も多く混ざっている。就職できること自体は喜ばしいことであるが、一方で、発達障害の診断がある・発達障害が疑われる学生が職場に上手く適応できないケースも増えている。
【3】企業として必要な雇用管理
最近は、ブラック企業だとか、パワハラとかいった問題が世間をにぎわせており、企業にとっての大きなリスクになっている。したがって、企業は雇用管理に慎重になっている。そのような背景の中で、企業は、問題が発生している現場(対象となる現場の働きづらさや上司の関わり)への介入に対して慎重になっており、なかなか本質的な問題解決に踏み込めずにいる。
その上、この問題への解決策も一筋縄にはいきにくい。当社の立場からして、どうしても発達障害の特性を踏まえた一般的な対応策をお伝えすることが多いのだが、正直なところ、発達障害や障害全般の知識があれば解決できるというものでもない。
発達障害の障害特性以外に、周囲との関係性、会社としてのマネジメント、リスク管理などさまざまな視点から考えないと、結局、的を射た解決策にならないため、高度なノウハウや経験が必要になることも多い。
したがって、解決策は複雑になることが多いのだが、私が見聞きしたトラブルを踏まえて、注意した方が良いと思われることについていくつか述べてみたい。
企業が注意すべきこと
【1】現状についての共通認識を持つ
本人の自覚と周囲の認識が違うと、現状認識がずれるので、その後の対応まで至らないケースが多い。データや客観的な事実、場合によっては第三者の介入も含めて共通認識を持った上で対応策を考えた方が良い。
【2】問題が発生しているマネジメント構造を考える
問題が起こると、目の前の個人に責任が押し付けられることが多い。しかし実際は、本人だけの問題ではなく、一緒に仕事をする周りの人との関係であったり、配置・業務の役割分担・指揮命令といったマネジメント問題であったりすることも多い。そういった風に、マネジメントの問題として捉えることで、取り得る選択肢は増える。
【3】環境面での工夫・配慮を行う
障害者手帳があろうがなかろうが、働く人への工夫や配慮の視点は共通することも多い。例えば、「ハード面の工夫(バリアフリーなど)」、「勤務時間や休憩時間の配慮」、「コミュニケーションや指示・指導の工夫」、「業務内容や業務範囲の配慮」などである。個々人の苦手さや弱みに基づいた工夫や配慮があるのが望ましい。
参考▶https://www.mhlw.go.jp/content/000575751.pdf
(引用元:厚生労働省「発達障害のある方への職場における配慮事例のご紹介」)
参考▶https://www.mhlw.go.jp/content/000575751.pdf
(引用元:厚生労働省「発達障害のある方への職場における配慮事例のご紹介」)
これらの視点は、実は、障害者であるかどうかにかかわらず、新入社員、外国人社員、高齢者などが働きやすくなるための工夫や配慮と重なる(もちろん、障害特性を理解することでより適切な工夫や配慮が必要だと思われるので、障害特性の理解も一定はあった方が良いが)。
以上から考えると、今後は、障害者手帳がある方だけを対象にして支援するのではなく、手帳はないが、さまざまな困りごとを抱えた個人や企業を支える仕組み、そしてその延長線上に、誰しもが働きやすい職場づくりというものをどう創っていくかが求められるのだと思う。
このことは、今後も継続して自分の課題として取り組んでいこうと思う。