【開催レポート】京都就労支援セミナー~発達障害のある若者が自分らしく働く未来にむけて~

2023年11月30日(木)、就労支援セミナー「エンカレッジ10周年記念セミナー~発達障害のある若者が自分らしく働く未来にむけて~これまで、今、これから~」を実施いたしました。
現地会場・オンラインあわせて200名を超える方に参加申し込みをいただきました。
北は北海道から南は沖縄まで、全国各地から多くの方に関心を寄せていただいたことに心より感謝申し上げます。
🟦 就労支援セミナープログラム概要
●「エンカレッジ10年と未来」
株式会社エンカレッジ 代表取締役 窪 貴志
●基調講演
「発達障害のある若者への支援における医療と支援機関の連携の必要性」
京都大学医学部附属病院 助教 上床輝久氏
「障害のある人の働き方の変化と支援者に求められること~50年を振り返って~」
社会福祉法人北摂杉の子会 理事長 松上利男氏
●実践報告
「社会資源の活用と連携について」
「幼少期に発達障害の診断を受けている方の就労事例~『彼と一緒に働きたい』が決め手~」
エンカレッジスタッフ
●講評・質疑応答

エンカレッジ10年と未来

設立10年という節目にあたり、代表窪よりご挨拶させていただきました。
  • 設立の経緯・社名に込めた思い(勇気づける・college=大学 から)
  • 発達障害のある学生のキャリア形成支援・就職活動の支援、その後の定着支援まで一気通貫でやっていきたい、という思いでスタートし、今も大切にしている
エンカレッジ10年と未来
 

🔸 10年の間に障害のある学生を取り巻く社会の変化

この10年の社会の変化をみる
 
  • 大学:10年前は支援体制が未整備であったのが、2024年の合理的配慮の義も控え、様々な支援を行き届かせていこうという風潮も高まっている。
  • 支援の対象:手帳の有無で支援の対象かどうかが分かれていたが、グレーゾーンという表現が使われるようになり、本人の困りや生きづらさに焦点が当たるようになってきた。
  • 企業:精神障害・発達障害のある人たちの雇用も有力な選択肢になってきている。
これから起こりうる社会の変化について、「変わるからどうしよう」ではなく、「今後も変わらず大切なことは何か・支援に求められることは何か」について、未来について考える材料になり、学びを深める機会となれば幸いです。

基調講演「発達障害のある若者への支援における医療と支援機関の連携の必要性」

上床輝久様 経歴紹介
京都大学医学部附属病院 助教
研修医として入局後に、自動精神科医を志し、京都市桃陽病院、滋賀県立小児保健医療センター、京都府こども発達支援センター等の児童精神科嘱託医として勤務。
2010年より京都大学保健診療所における診療および健診、産業医業務を通じて、青年期の精神疾患、神経発達症の臨床および支援に携わり、2019年より大学附属病院での臨床に携わっている。
2021年京都大学医学部附属病院 助教。

🔸 学生⇒就労への課題

  • 教育機関から修学機会を保障され、サービスやサポートの受け手であったのが、自分が必要な支援を自分で理解し、他者や社会に発信する態度が求められていく
  • 「社会人として」の態度、労働者としての生産性が求められる切実なキーワードとして浮かび上がってくる
  • 生産性について配慮を受けたとしても、他の方と比較し自分ができていないと感じてしまうこともある

🔸 支援機関・医療機関・就労先の連携

  • 就労先と医療機関のやりとりは診断書ベースであることが多い
  • 支援機関が診断書を読み解き、その人にあった具体的でより実効性の高い支援を提供し、提案する役割を担っている
  • 支援機関が勤務先から得た情報をまた医療機関にフィードバックすることで治療方針にも役立ち、当事者の方にとってよりよい社会環境を築いていくことができる
※スピーディーな対応を急ぐあまり個人情報の取り扱いが疎かにならないよう、十分注意すること
※「支援機関」はそれぞれ独立した事業所だけでなく組織の支援部門も含めている。

基調講演「障害のある人の働き方の変化と支援者に求められること~50年を振り返って~」

松上様 経歴紹介
社会福祉法人 北摂杉の子会 理事長
一般社団法人 大阪知的障害者福祉協会 会長
一般社団法人 全日本自閉症支援者協会 会長
京都杉の木会常務理事・京北やまぐにの郷施設長を経て、北摂杉の子会設立に携わる。
日本知的障害者福祉協会では長期にわたり中心的な役割を果たし、後進育成に尽力。
厚生労働省「障害者虐待防止・権利擁護指導者養成研修」検討委員、「強度行動障害を有する者の地域支援体制に関する検討会」構成員、日本障害者虐待防止学会等で活動している。
松上様が障害福祉の仕事に就かれこの道50年の実践のご紹介をいただきました。
アメリカの全米親の会副会長からヒントを得てグループ就労を実践、スイスへ留学され、帰国後缶のリサイクルセンターの事業化を実現するなど、多種多様に障害のあるひとたちの就労を実現し、尽力してこられました。
京北やまぐにの郷では、強度行動障害のある方々の地域での社会参加を目指し、牧場でのグループ就労を実現されました。
障害のあるひとのディーセントワーク(Decent Work)の研究実績のご紹介
特に強調されていたことは3点
  • 「障害を働けない理由にしない」ということ。働ける環境をどう作るかが重要である
  • 合理的配慮がなされ、強みを発揮できる環境が提供されていること
  • チャレンジ・様々な体験ができる環境が提供できること
また、そのディーセントワークの実践事例のご紹介をいただきました。
様々な実践の中で、困難に目を向ける問題思考ではなく、いろんな可能性やアプローチを探る機会重視の発想が大切だ、とお話を頂きました。
法人の社会的責任
  • 制度に従うのではなく、制度を活用すること
  • 制度に向き合うのではなく、ニーズに向き合うこと
  • 制度のないところからサービスを提供し、新たな制度を創造する

発達障害のある若者を取り巻く社会資源やエンカレッジの概要について

実際の就労の事例の報告をさせていただきました。
資料の一部を紹介させていただきます。
職業準備性ピラミッド
 
エンカレッジが支援の中で重要視していることは、職業準備性ピラミッドに基づき、働く土台を整えていくことです。就職となると、目の前の面接対策や筆記対策などにとらわれてしまいがちですが、ビジネスマナーやあいさつなどの対人マナーを身に着けておくことや、生活リズムを整えていくことは、どのような仕事においても、長く安定して働くために重要であると考えています。
就労事例として「幼少期に発達障害の診断を受けている方の就労事例~『彼と一緒に働きたい』が決め手~」と発表させていただきました。
就職活動となるとPCや資格など業務のスキル面を考えてしまいがちですが、今回紹介させていただいた方が内定を勝ち得た上で重要であったポイントは、特性での課題はありつつも「一緒に働きたい」と企業の方々に思われたことであったと考えます。
  • 基本的な生活習慣が整えること
  • 挨拶・言葉遣いなどの基本的な礼儀やマナーを身につけておくこと
  • 他者からのアドバイスを素直に受け止められる心の土台を作っておくこと
ご家族や本人に関わる方々にこのような面でサポートいただくことで就職し、長く働き続ける土台となっていくように考えます。

実際の参加者の方にアンケートにご協力いただき、このような感想をいただきました。
一部ご紹介させていただきます。
発達障害のある若者の現状や雇用の現在について知る事ができた。また、就活がいかにストレスになるかも知る事ができた。その中で、それまでの期間に何をしたら良いか、どのように働くという事、社会に出るという事と向き合っていけばよいかを知る事ができました。ありがとうございました。(当事者のご家族)
障がい理解に向けて、苦手に向き合うことは重要ですが、 それに加えて良い点に向き合う、という部分についても改めて自身の対応を見直していきたいと考えました。(高等教育機関・支援機関)
最後になりましたが、お忙しい中ご参加いただいた皆さま方、誠にありがとうございました。 皆さまのお役に立てることがあれば幸いです。

【2/7開催】第9回エンカレッジ就労支援セミナーのご案内

2024/2/7に「第9回エンカレッジ就労支援セミナー~実践から学ぶ!発達障害のある人の支援~」を開催いたします。
第9回目となる今回は、対面形式の二部構成でのセミナーとなります。
第一部の講師には、株式会社アソシア代表取締役CEO の神谷牧人氏をお迎えし、「面談での“聴き方”」についてご講演いただきます。
ご講演の中にはロールプレイもございますので、ぜひ、実践で学び、皆様の支援現場にお持ち帰りください。
第二部は就労移行支援事業所エンカレッジから2つの実践報告をさせていただきます。
一つ目は在学中からエンカレッジを利用された大学生の支援事例集を、二つ目は企業やご家族と連携した定着支援の事例を報告いたします。
エンカレッジ就労支援セミナー