障害のある大学生の就職支援シンポジウム-点と面での支援を通じて障害と就労について考える-開催レポート!

5月17日(金)にキャンパスプラザ京都で開催された「障害のある大学生の就職支援シンポジウム-点と面での支援を通じて障害と就労について考える-」
本シンポジウムは、「障害のある大学生の就職支援」をテーマに、大学での支援、企業での支援、 産・官・学ネットワークでの支援の3つの事例を紹介しながら、「点」と「面」での支援を通じて、障害と就労について考えることを目的に実施され、約50名の高等教育機関の関係者が集まりました。
エンカレッジ代表の窪からは、京都大学、大阪府、京都府等と連携して今年2月に実施した「みんなでサポート就活」の報告をさせていただきました。
障害のある大学生の就職支援シンポジウム
 
この記事では、シンポジウムの内容をまとめたレポートをお送りします。
特に、障害のある学生・若者の社会移行、就職支援に携わられている方には、ぜひご覧いただければと思います。
前半は、大学での支援、企業での支援、 産・官・学ネットワークでの支援それぞれの事例について、話題提供がなされました。
 

【テーマ1】大学での支援「京都大学における障害学生の就職支援」
話題提供者:京都大学 学生総合支援センター 障害学生支援ルーム 大江佐知子様

▶ 京都大学の障害学生支援ルームの利用状況

障害学生支援ルームは、学修・研究上の必要に応じた修学支援(教育上の合理的配慮)を行う部門。
利用登録のある学生または合理的配慮の申請をしている学生のうち、一定数は「就職活動に関する相談」を主訴として来室。主に発達・精神障害の診断がある、もしくはその傾向がある学生。

▶ 社会への移行を見据えた支援のあり方と課題

障害学生支援ルームは、教育上の合理的配慮を提供することが目的ではあるが、修学支援を対処的なものとせずに、+αの支援となっていることが重要であると考えている。
本来は、修学支援から移行支援へと段階的に支援を行っていく形が理想ではあるが、修学上は支援・配慮を必要としなかったり、必要に応じた修学相談のみ利用している学生の場合は、どうやって移行支援に至るのかが課題。
実際に、修学面では支援をほとんど必要としないが、社会への接続でつまずく学生が一定数いる。特に精神・発達障害学生の場合、「体験」の重要性は確かであるが、一足飛びにそこに至ることは難しい。
そこで、京大生の特徴も踏まえて、具体的な施策として修学支援から社会への移行(就職活動がメインではあるが、必ずしも就職とは限らない)を見据えた支援を段階的に行うためのプログラムを実施している。
(1)就労支援セミナー
精神・発達障害等またはその傾向のある学生(学年問わず)を対象として、夏休み前後と春休みの年2回実施。
「就労」という将来への見通しを掴むこと、「社会」のリソースについて知ることを目的に、社会移行に関する全体像を掴んでもらう、情報収集の機会としている。
(2)社会移行のための個別相談会
協力の申し出をいただいた企業や支援機関など「社会」につながるリソースの担当者と学生との個別相談会を月1回程度実施している。
就職活動や今後のキャリア、障害者雇用についてなどの個別相談ができる場となっている。
企業と話す場合も、就活の一貫として評価を受ける場ではないため、就職活動が始まってからは聞きづらいような話や個人的なキャリアの相談もできる。
(3)その他、体験への促し
障害学生対象の学内インターンシップ(総務部人事課主導)、ACEインターンシップ&合同キャリアセミナー(後述)などへの参加を促している。

▶ 学内での取り組みを通じての所感

大学の支援者以外の第三者の立場(=社会)からもたらされる情報の重要性、ロールモデルの影響力を感じる一方で、そういった学外のリソースへ学生自らがアクセスすることへの難しさもある。
そのため、大学に居ながらにして企業や地域の支援機関など、「社会」の一端に触れることができることが大切である。
また、学生たちが「社会」と接触して自身を表現することによって、「社会」の側にもポジティブな変化が起こることもわかった。
今後は、学生が社会移行を意識したタイミングでの適切な情報提供が課題になってくる。

【テーマ2】企業での支援-「ACE(企業アクセシビリティ・コンソーシアム)の取り組み」
話題提供者:積水ハウス株式会社 人事部 人事グループ 部長 西原靖様

企業アクセシビリティ・コンソーシアム(ACE)は、「企業の成長に資する新たな障がい者雇用モデルの確立」を目指し、業種・業態を超えて志を一つにする大手企業が集まり、2013年に結成された一般社団法人である。
2019年5月現在、会員企業は33社。(Webサイト→https://www.j-ace.net/about/
ACE内にある「学との連携部会」は、大学と企業間の人材パイプラインを構築し、大学との協働を通じて、障がいのある大学生を企業で活躍する人材に啓発・育成することを目的に運営している。
本部会で2018年から行っているのが、「ACEインターンシップ&キャリアセミナー」である(2019年度も実施予定。5月下旬より案内開始予定)。
企業での体験・実習や、障害のある先輩社員からのリアルな話を聞くことにより、参加学生からは、働くことへの不安が解消された、今後のキャリアイメージが湧いた、今の自分に必要なことがわかった、などの感想があった。

【テーマ3】産・官・学ネットワーク支援-「京阪地区『みんなでサポート就活』報告」
話題提供者:京都大学 学生総合支援センター 高等教育アクセシビリティプラットフォーム(HEAP)舩越高樹様

▶ 移行支援に関連して大学で求められていること

障害のある学生の修学支援に関する検討会報告(平成28年 第二次まとめ)によると、障害のある学生における大学等から就労への移行に関して、
(1)就職活動が複雑である
(2)モデルケースを周辺に見つけづらい
(3)支援関係者が多岐にわたる

といった課題がある。
解決策として、早い段階からの多様な職業感に関する情報や機会の提供を行うことはもちろん、関係機関間でのネットワークづくりを促進することが重要である。

▶ 大学での学生支援の課題と打開に向けた取り組み

学内には、学生相談、キャリア支援、障害学生支援など支援の仕組みはあるものの、相談・支援サービスを利用しようとしない学生をつなげるための有効な手段を打てていない。
無支援のまま卒業する学生が多く、その後の支援にもつながっていない現状がある。
また、支援担当者側の課題として、障害学生支援部門と就職支援部門での連携が取れていない、学外の機関との連携が取りにくい、障害者雇用に関する知識や支援ノウハウ不足なども挙げられる。

打開に向けた取り組みとして、京都府の「寄り添い支援型学生インターンシップ事業」や、岐阜県の発達障害学生支援における大学と地域の連携体制構築の取り組みなどがある。
今回、HEAP主催で実施した、京阪地区における産官学連携支援モデル事業「みんなでサポート就活」は、
(1)伴走型就活・支援記録共有型就活
(2)ダイバーシティ雇用の実現

を目指し、産・官・学が連携して就職困難学生を支援する仕組みである。
伴走型就活・支援記録共有型就活とは
ダイバーシティ雇用
通常の就職活動との違い
 イベント後、学生は面接やインターンシップ等を通じて採用に至る流れとなっているが、今回は採用に至らなかった学生も、行政の就職支援機関や就労移行支援事業所、若者サポートステーションなどのセーフティネットにつながる流れをつくった。

▶ 関西地区の今後の課題

(1)複雑な縦割り構造の中での連携システムづくり
産官学及び教育(研究)・労働・福祉の複雑な構造の中で、「支援ニーズのある学生」がスムーズに社会(就労)移行する連携システムをいかに構築するか。
(2)対象者の課題
精神・発達障害以外の学生の就職支援システムをどのように強化していくか。
(3)支援プロセスにおける課題
修学支援担当者とキャリア支援担当者の連携をどのように進めるか。本人のアセスメント、マッチング時のフォロー、定着支援などを誰がどのように実施・実現するか。
(4)企業・行政への期待と今後の事業展望
従来型の障害者雇用に当てはまらない学生も多く、米国のジョブスクリプト型の雇用など学生の強みを生かせる雇用形態をどのように創造するか。

話題提供者:大阪府 商工労働部 雇用推進室 労政課 企画グループ 課長補佐 山本恭一様

▶ 発達障害など就職に困難性のある大学生の現状

学校基本調査によると、大阪では、大学を卒業した者4万人中、6,000人は安定就職につながっていないという統計結果が出ている。(7人に一人の割合。全国では6万4,000人、8人に一人が無業・不安定就労者である)毎年およそ6,000~10,000人の無業・不安定就労者が積み重なって、若者の就業率の低さ、失業率の高さ、約4万人ものニート・引きこもりにつながっている可能性がある。昨今、人材不足が叫ばれているものの、その一方で働けない若者がたくさんいる。
しかし、安定就職につながっていない層については、大学においてもほとんど把握ができておらず、実態が明らかになっていない。既存の調査ではなぜこのような状況になったのかが不明なため、理解が進まない、具体的な対策を打ちにくいという課題がある。
特に大学においては、障害等について自己認知していない、もしくは自己認知があるが支援者につながっていない学生をどう支援していくかが課題の一つになっている。
学内外を含め、彼らを支援する機関は存在するが、個人での利用はハードルが高く、利用してもらいにくい。大学から行政サービスにスムーズにつながる組織的な流れをつくるため、教育から就業への円滑な移行を図ることのできる産官学のプラットフォームが必要であると考えている。

▶ みんなでサポート就活の取り組みと今後について

「みんなでサポート就活」では、大学・OSAKAしごとフィールド・エンカレッジそれぞれで役割分担しながら実施した。
大学とOSAKAしごとフィールドとの橋渡しをしたエンカレッジの役割は大きかったと感じている。
イベントは、OSAKAしごとフィールドで実施している職場見学を通した就活プログラム「あんしん就活」(https://shigotofield.jp/news2/2018_anshin/)の仕組みを活用した。
求人を背景とした職場見学や、上手く行けば就職につながるというリアルな交流体験に参加することで、学生自身の自己認知が進み、結果的に複数の学生の就職につながった。
今回の経験から、企業に理解してもらいやすい学生の配慮事項の伝え方やコミュニケーションの方法が課題になることがわかった。
今後は、大阪府発達障がい児者支援施策庁内推進会議(大学連携部会)を中心に、就職に困難性のある大学生への自立支援を支えていく組織的アプローチの土台としての関係機関による強固なネットワークを形成していく。

株式会社 エンカレッジ 代表取締役 窪貴志

▶ 大学生支援の経験から生まれた問題意識

発達障害のある学生や就職に困難さを抱える学生からの相談は多い。学生自身は一般雇用か障害者雇用かで揺れるが、エンカレッジでは基本的には障害者雇用につないでいくことになる。これまでの支援の手段では、多様な学生のニーズに答えきれなかった。
また、大学とのつながりの中で、発達障害のある学生の支援に携わる部署が複数にまたがっており、学内の情報連携の難しさや、卒業後に外部につないでいく際の情報連携の難しさを感じていた(支援者が替わる度に一から確認をしていく必要があり、本人からすると二度手間になってしまうことも)。また、企業側も、選考時に学生のことがわからない状態では採用できないのでは?という疑問もあった。これらの解決策として、今回の「みんなでサポート就活」の実施に至った。

▶ エンカレッジから見た「みんなでサポート就活」の位置づけ

みんなでサポート就活は2つのフェーズに分かれると考える。まず準備フェーズでは、学生が自身の情報を蓄積・整理する。今回は、学生には大学の支援者と一緒に自己PRや配慮事項をまとめてきてもらった。支援者から学生に関する詳細な紹介文が提出されるケースもあり、大学としても本人の情報を企業に伝えたいというニーズがあったのではないかと感じた。
次のマッチングフェーズでは、学生の多様なニーズに対応するため、障害者雇用・一般雇用含めて、複数の選択肢を用意した。また、今回はBoosterキャリアというICTツールを活用し、学生が自身に関する情報を蓄積、言語化できるようにした。

▶ マッチング結果から見る成果と課題

参加者34名のうち、10名が内定、うち8名が入社となった(内定者内訳:障害者雇用6名、一般雇用4名)。採用につながった事例を縦軸を社会適応度、横軸を専門性としたマトリックスで整理すると、ボリュームゾーンが3つあった(下図参照)。
マッチング結果から見る成果と課題
(1)IT系の雇用(一般/障害)
企業側は学生の専門性を評価し、社会性については歩み寄っていただいたことでマッチングした。
(2)事務系の障害者雇用
就職活動が上手くいかなかった経験から本人の自己理解が進んでおり、それを企業に伝えることができたことでマッチングした。
(3)マッチングしにくい層
就職活動に全く取り組めておらず、特に本人の自己理解が浅いと、企業側はリスクを感じやすい。この層については、マッチングの機会だけでは難しいということがわかった。
総じて言うと、この時期にマッチングの機会をつくることで、社会につながる層が一定いるということがわかった。しかし、そこに至る前段階の学生の方が多い。マッチングしにくい層をどうサポートするかが今後の大きなテーマになると考えている。

▶ まとめ(キーワードのみ)

(1)マッチングの成果、外部支援機関へのコーディネート
(2)学内での支援が学生個人を中心に引き継がれる仕組みを構築できたこと

が今回の成果と認識している。
一方で、今後に向けての課題については
(1)学生に対する、継続的な準備支援の必要性
(2)学生の専門性や準備度に基づいた選択肢の提示
(3)アセスメントの共通言語化
(4)定着支援の仕組みづくり
(5)学校/企業/外部支援の役割分担と運営のあり方

が挙げられる。

パネルディスカッション~「点」と「面」での支援を通じて障害と就労について考える~

後半は、京都大学 学生総合支援センター 障害学生支援ルーム 村田淳様のファシリテートにより、前半の話題提供者それぞれへの質疑応答を行いました。その内容をレポートします。
◆京都大学 大江様
Q.就労支援セミナーや個別相談会への他部署の反応は?他部署との連携はできるようになったか?
A.他部署にも学生への案内を依頼している。その中でキャリアサポートルームとは連携できるようになってきた。学生のリファーもあった。また、キャリアサポートルームのミーティングに参加し、障害支援ルームでできる支援について情報提供を行う機会もあった。学生にどんな出口があるのか知りたいという要望が聞かれた。
Q.学生がセミナーや個別相談会に参加したことで、修学に影響を及ぼすことはあるか?
A.授業ではメモを取れなかった学生が、支援機関や企業の話を聞き、メモをとろうとするようになったり、その後の修学支援でも手帳に予定を書き込むようになったりした。
◆ACE 西原様
Q.京都大学の個別相談会に参加した感想は?
A.おもしろかった。通常は学生と話す際は採用目線で見てしまうが、採用とは別の軸で話ができた。参加していた学生は、発達障害のある学生中でも比較的言語化ができる人たちだった。たどたどしさは感じるものの、色んな話ができたと感じている。
Q.採用活動において、複数の企業が一つの団体として活動する意義や効果はあった?
A.大きな企業でも採用担当者が1~2名しかおらず、それぞれが悩みながらやっている状態。隠し事なく情報共有できる場は貴重。採用活動だけでなく、企業内でのロールモデルを示し合うなど良い関係が築けている。
◆HEAP 舩越様
Q.関西圏の今後の課題は?
A.他地域と比べると支援の土壌は整っているが、そこから一歩踏み出し、実際に関係者が連携して協業できる仕組みをどうつくっていくか、誰が旗振り役となるのかが課題。ノウハウを蓄積しながら、その仕組みをしっかりと根付くものにしていく必要がある。また、米国のジョブスクリプト型のように、様々な形でのダイバーシティ雇用を生み出していけないか。
◆大阪府 山本様
Q.OSAKAしごとフィールドが行った企業向けのフォローは?
A.就職後も継続して関わっていくことが望ましいが、体制的にも非常に難しい。何かあった時に担当のカウンセラーに一報を入れてもらうよう伝えてはいる。
今回のイベントでは、事前に企業に集まってもらい、当事者の困難性を一般論として伝えた。個別の困難性については、職場体験の際に担当のカウンセラーが企業に訪問して伝えた。
Q.みんなでサポート就活やあんしん就活において、一般雇用で就職が決まっていく層は?
A.今はどの企業も人材不足なので、そうでない時期にはあまり視野に入っていなかった困難性のある人材も採用したいという企業が増えてきた。一定のコミュニケーション能力・社会人基礎力がある層がやはり決まりやすい。専門性がなくても採用する企業の場合、社内で活躍できる伸び代があるかを見ている。一方で、学生の意識の問題が課題に上がっていた。就職に対する焦りがない、自分事として捉えられていない層は難しかった。
◆エンカレッジ 窪
Q.今回のイベントではマッチングが難しかった学生は、どういう状態の学生?そうなっている理由は?
A.専門性・コミュニケーション・準備度(モチベーション・やる気・自己理解)の3つの観点があるが、その中でも準備度で課題があると企業としても評価できるポイントを見つけにくい。コミュニケーションは専門性でカバーできる可能性がある。
Q.今後マッチングの可能性のある分野は?
A.語学、ITなど、点数や資格などで専門性が可視化しやすいもの。もしくは、デザインなどは専門性を構成する事前の要素を評価してのマッチングがあり得るのではないか。そういったスキルは可視化されにくいので、企業・学生双方がもう一歩踏み込む必要はあると思う。
最後はフロアからの質疑応答の上、閉会となりました。
今年度は、これらの取組みから見えてきた課題や展望を軸に、さらにブラッシュアップした事業に取組んでいきたいと思います。