コロナ禍で在宅訓練を始めて見えてきたこと

コロナ禍で在宅訓練を始めて見えてきたこと
 
みなさん、こんにちは。エンカレッジの高橋です。このコラムも3回目となりました。前回から今回までの間に、今まで経験のない大きな社会の変化がありました。5月21日には緊急事態宣言も解除され、少しずつ以前の状況が戻りつつあるかと思いますが、すべてが以前と同じように…とは、いかないようです。
今回は、エンカレッジの就労移行支援事業において、コロナへの対応をどのように行い、また、今後に向けてどんなことが見えてきたかについて、まとめました。

エンカレッジの就労移行支援プログラム

エンカレッジの就労移行支援事業所では、4月8日(水)から一斉に在宅訓練に切り替え、5月29日(金)まで継続しています。3月半ばからコロナウィルスの感染拡大が一気に加速し、学校が休校になり、多くの企業が在宅ワークに切り替える中、エンカレッジでもどのようにご利用者とスタッフの安全を守りながら運営していくべきか検討を重ねました。
エンカレッジの基本のプログラムは、
⏰ 午前:就職に向けて個別のスキルアップ(できることを広げる・深める)
⏰ 午後:コミュニケーションを学び、実践する講座
となっています。
午前中の活動は、タイピングの正確性や入力スピードのアップ、WordやExcel、PowerPointなどの学習、どんな職場でもありそうな事務周辺業務や軽作業(名刺や領収書の仕分け/分類、はんこ押し、カタログ請求など)、新聞を読んでレポートを書く、自分にとって必要なことを行う自習を、曜日ごとのサイクルで行います。また、スタッフとの面談も週1回あり、目標の設定や振り返りなどの時間を確保しています。
午後の講座は、ビジネスマナー、グループワーク、ライフ(生活)スキル、自己理解、企業研究、就活に向けての準備講座、リフレッシュタイムなどの講座を日替わりで行いながら、就職へのモチベーションアップ、自己そして他者への理解を深めていけるような構成にしています。
ご利用者のニーズや就職へのイメージとして、いわゆる事務系の職場(オフィス)で働きたい、PC入力などオフィスワークを希望される方が多いことから、このようなプログラムを行ってきました。
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コロナに対して想定したことと、その対応

コロナの感染が拡大する中、発生の可能性があるリスクを洗い出し、その対応策を想定していきました。 非常時ですので、事態が起こってからの対処ではなく、ご利用者もスタッフも、予防的な対応を進める方が、安心安全につながると判断し、在宅訓練を想定したシミュレーションを行いました。幸い、エンカレッジでは上記のようなプログラムを行っていたため、午前中は、曜日替わりで従来の活動を軸に(※1)組み立てました。午後は、ご利用者も在宅となり、他者との接点がうんと減ることで孤立しないように、担当のスタッフとの面談を毎日行う形にしました。
※1:4月の在宅プログラム例
4/13
企業研究
面接対策シート
 
4/14
働くチカラWEBを
読んでレポート作成
 
4/15
自己理解のためのワークシート
 
4/16
PCワーク(タイピング・練習問題)・家事のお手伝い
4/17
好きなものプレゼンの準備
 
 
在宅訓練が現実的に可能かどうかを確認するために、PCやスマホ、ネット環境についてのアンケート調査を、まずはスタッフに、その後にご利用者全員に行いました。結果、若干物理的に難しい方はいましたが、概ね問題ないことを確認できました(難しい方は、事業所からワークシートや資料を事前に持ち帰ってもらうなどで対応)。その後、在宅訓練の実施決定に踏み切りました。
そこで重要だったのは、ICTツールです。エンカレッジでは、平時からご利用者とメール、Booster(スケジュールやタスク管理・チャット機能)、Boosterキャリア(就活用の情報蓄積)などを活用していました。また、実施した課題の結果や感想をご利用者が担当スタッフにメールで送るなどは普段から行っていましたので、実施の流れやイメージを容易に共有できました。
そして、オンラインで面談をするためのWeb会議システム「Zoom」。スタッフ間では会議や打ち合わせでZoomを活用していましたので、さほど大きな問題はありませんでした。一方、ご利用者のZoom導入には、事業所全体で半日かけて取り組みました。ダウンロードして、試しに会話して…という手続きを一緒に行い、これでつながる!という状態をつくりました。
そして、いざ在宅訓練のスタートです。初めの3日間は、ご利用者は自宅で、スタッフは全員事業所にいるという形から開始しました。初日はやはりZoomの声が聞こえない、つながらないなどのトラブルはありましたが、ご利用者の適応の早さに助けられ、3日目にはとてもスムーズにつながるようになりました。
4日目からは、私たちスタッフも在宅勤務へと移行し、Zoomで朝礼をし、今日のプログラムや面談予定を確認し…という毎日を送っています。本当に、Zoomがないと在宅訓練は成り立たなかったですね。さらに、社内の情報共有ツールとして、LINE WORKS(LINEのビジネス版)を導入していたことも役立ちました。メールでは少々大層に感じることも、トーク機能を使うことで気軽に連絡・確認をしやすかったことで、業務上必要なコミュニケーションを取ることができました。

在宅訓練を開始して、良かった点

在宅訓練が開始し、現在は1ヶ月半が経過しています(2020年5月現在)。実際に行ってみて、良かった点や課題点を振り返ってみたいと思います。

◇良かった点1:毎日面談ができること◇

毎日面談できるので、じっくり話が聴けること、そして午前中に行った課題に対して、タイムリーなフィードバックを丁寧にできることはメリットでした。スタッフからも、これまで聞けなかった話が聞けたり、たわいない雑談からご利用者への理解が深まったりと、より信頼関係が深まっているようです。

◇良かった点2:Zoom活用で、できることの広がり◇

先にも述べましたが、Zoomでのやりとりになり、これまでの対面での面談より、事前の準備や共有をより一層するようになりました。「毎日会える」前提ではなくなったからこそ、その時間にやるべきことや検討すべきことをシミュレーションして、準備して挑めるようになったのではと感じます。必要に応じて、画面共有で1週間の目標の振り返りをしたり、ホワイトボード機能を活用して内容を視覚化したり、ご利用者にとっては目で見て確認できる方が安心できるので、そういう意味でも役立っています。人にもよりますが、オンライン面談になってからの方がよくお話しができている方もいるようです。
また、ご利用者同士で、Zoomでつながる企画も楽しんでいます。カメラをオフにして声だけの参加もOK、人の話を聞くだけの参加もOKです。好きなものや今はまっているもの・マイブームをプレゼンしたり、ぶっちゃけ外出自粛しはしんどい!ということを共有し、「ほかの人の意見が聴けて楽しかった」「○○さんの話をもっと聞いてみたい」「また何かをテーマにつながりたい」という感想が挙がっています。他者に興味を持ち、質問ややりとりが発生し、自然発生的な会話につながることもあります。在宅訓練になってから、ご利用者も他の人とつながる機会を欲していることが、これらの感想からも見えてきます。
それから、通所時には体調が整いにくかったご利用者の中には、在宅訓練になって出席率がアップした方もおられました。発達障害のある方の中には、睡眠の困難や朝の起きづらさ、低気圧の関係での不調など起こりやすい方がいます。毎日決まった時間に通所となると、体調により家から出られずお休みになってしまったり、体力も必要なので週のうち数日は休息が必要な場合もあります。事業所に行くのはしんどいけど、家でならやれる!とプログラムに参加できた、オンライン面談ならできた、というプラスの効果もありました。全体で5%程度、出席率がアップした事業所もありました。
最後に、スタッフ間の業務効率化につながったことです。これまでは打ち合わせなどで別の事業所へ移動して会議や打ち合わせをしていました。移動時間に1時間見て動くのが当然だったのですが、Zoomでの打ち合わせが当たり前となり、ぱっと時間を調整してすぐに打合せができるところは、かなりの効率化につながりました。

在宅訓練を開始しての、課題点

一方で、在宅訓練での課題点には、以下のようなことがありました

◆課題点1:直接やりとりできないことによる限界◆

たとえば、言語での表現が苦手なご利用者だと、ボソッと語ったその一言だけでは読み取れない、表情や雰囲気が画面上では読み取り難いことです。対面であれば、同じ場に居ながらの空気で感じることもあると思いますが、画面を通してはなかなか感じにくいところです。
また、これは人によって差はありますが、自宅という環境や、周囲に人がいない(指示者/監督者)がいない環境では、自己管理が難しく、私たちも進捗の把握が困難になっている方もいます。(裏を返せば、監督者がいない環境でも業務遂行できる方・難しい方を把握することにもなりましたが)自宅であるが故に、切り替えが難しく、集中ができず出席率が下がる方も少数ながらいました。

◆課題点2:リアルな場面での作業スキルや職業スキルの評価ができない◆

これは単純に、リアルの場面で手を動かして作業をすることができない状況に依るものです。リアルな場面での評価ができるのは、通所ならでは、のことだと思います。その分、在宅訓練では、成果物で評価することがメインになることも見えてきました。

◆課題点3:就活を進められない◆

4月から本格的に就活を…と思っていた方は、出鼻をくじかれ、就職への焦り感が強くなっています。幸いネットで求人が見られるので、継続して求人検索をしたり、応募書類のブラッシュアップに力を入れたり、いざ始められるとなった時に、すぐに動ける準備と整えています。

在宅訓練を行う中で見えてきたこと

これまでは事業所に通所してもらって当たり前だった訳ですが、ご利用者やその状況によっては、在宅訓練がマッチしている方もいて、その可能性が見えたような気がしています。
また、プログラムの在り方も、オンラインでできることと、直接会ってリアルコミュニケーションで行うことと、分けて実施していくのもありではないか、と検討を始めています。たとえば、これまでは、事業所で毎日スタッフの誰かが講座をしていましたが、オンライン講座にすることで、1つの講座を全事業所でつなぐことも可能になります。5人のスタッフが講座を準備する時間やリソースの軽減になりますし、情報の均一化にもなります。その分、企業との調整や開拓、ご利用者個々の支援、新しいプログラムや講座の開発にあたれる時間が確保できるのではと考えています。
また、PCとネット環境、そしてご本人の一定のPCスキル、自分でコツコツと作業を進められる、チャットなどのコミュニケーションツールも要領がわかれば使いこなせる、期待されていることや課題設定が明確などの条件が揃えば、リモートワークでの就業の可能性も大いにありそうです。
いずれにしても、コロナがもたらした変化を受け止め、その中で私たちが何をやるべきかを、走りながら、考えていかねばなりません。その変化に応じて、就労移行支援事業の在り方も変化していかなければと感じています。これまでは、ご利用者のニーズから、オフィスで事務系で…というイメージでのプログラムが軸になっていましたが、一年先もずっとこのままで大丈夫か?という危機感を持っています。
私たちが、在宅でもできることはあると感じているように、企業はもっとシビアに検討しているでしょうし、もしかすると障害のある人がやっていた仕事が無くなることも考えられます。逆に新たなニーズが生まれ、これまでにない雇用につながるかもしれません。また、一方で、介護福祉や建築業界など、常に人手が足りていない業界もあります。その業界で必要とされる専門技術の習得や育成プログラムを検討していくことも1つかもしれません。
現時点で、こうだ!とは明言できませんが、この先、企業側の採用やニーズの変化に合わせて、支援の幅や質も変化していくでしょう。その中で、コミュニケーションが苦手な学生や発達障害のある人たちを社会につないでいくために、私たちは成長のエネルギーの変圧器として、また、ハブとして機能し、両者が正しく分かち合え、尊重し合える文化としくみづくりを目指していくことに変わりありません。
今後も、当事者・企業・大学・支援機関・社会の課題解決と、それぞれがwin-winになることを今後も追求していきたいと考えています。
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