2025年9月2日に開催したセミナー「障害のある学生の卒業後の多様なキャリアの在り方について考える」の後半では、ブルームバーグの障害のある社員の体験談発表や参加者同士の意見交換会が行われました。
ご家族や支援者のリアルな声を受けて、さまざまな意見が飛び交い、実りある時間となりました。
ご家族や支援者のリアルな声を受けて、さまざまな意見が飛び交い、実りある時間となりました。
ブルームバーグ社員の体験談:「自分らしいキャリア」をつかむまでのリアルストーリー
実際にブルームバーグで活躍している中込安政さんが、自身のキャリアや経験について率直に語ってくれました。
中込さんは、発達障害当事者でご自身のことを「人間関係が苦手などんくさい人」と表現されていました。障害は単なる個性ではなく周囲との違いによる困りごとにあると説明しました。
ご自身の強みとして興味への継続力と行動力があり、金融への興味から投資家を目指していたこともあるそうです。
前職でご自身に障害があることがわかった中込さんは戦略的に障害者手帳を取得する道を選びました。その背景には、「手帳があることで配慮調整を受けどのように活躍するかという問題解決の話からはじめられるという、前向きな視点がありました。
家族との関係についても率直に話してくれました。お母さまは、障害がわかった中込さんに対し息子が前向きでいられるように、あえて距離をとって見守る姿勢をとっていたとのこと。「気軽に弱音を吐ける関係性があって、本当に救われた」と、中込さんは感謝の言葉を口にしました。

🟧「自分に合った働き方」を見つけて
現在の中込さんは、ブルームバーグで主に金融データの業務をこなしながら、自発的に金融市場の分析記事を書くようになりました。
ブルームバーグターミナルを通じて世界中の投資家に情報を届けるという、グローバルな舞台で活躍中です。
ブルームバーグターミナルを通じて世界中の投資家に情報を届けるという、グローバルな舞台で活躍中です。
具体的な業務の一例として、公開されている財務情報を、投資家が活用しやすいように整える仕事をしています。一見すると地道な作業に見えますが、その中にも彼の「興味の継続力」と「行動力」が活かされているとのこと。
とはいえ、特性上、作業中にミスが出やすい場面もあるそうです。それでも一つひとつ自分で見直し、仕組みを整え、改善を積み重ねてきました。「自分の作品が世界中の投資家に読んでもらうチャンス」と笑顔で話す姿が印象的でした。
とはいえ、特性上、作業中にミスが出やすい場面もあるそうです。それでも一つひとつ自分で見直し、仕組みを整え、改善を積み重ねてきました。「自分の作品が世界中の投資家に読んでもらうチャンス」と笑顔で話す姿が印象的でした。
🟧自分を知り、努力を積み重ねる
中込さんは、自分の中にある“得意”と“苦手”を整理しながら、「できること」と「やりたいこと」のバランスを取ることの大切さを語ってくれました。
彼の言葉で印象的だったのが、
「一般的に発達障害のある人は、できることは大きいけれど少ないと言われます。障害のない人は、できることは小さいけれど多い。どちらが良い悪いではなく、小さいことを一つひとつ増やしていくことが、やがて大きな成果につながっていく」
というフレーズでした。
今でも「日々、苦手なことにもがいている」と語ります。それでも、強みや興味のある仕事があることで、自信の“補給”ができているといいます。
🟧合理的配慮とは「獲得するもの」
「配慮」と聞くと、会社からのサポートというイメージを持たれがちですが、中込さんは「合理的配慮には2つある」と話します。
1つは会社が当然提供すべき環境整備。もう1つは、自分で獲得していく配慮です。中込さんは、「会社は福祉施設ではない。一緒に働く仲間たちは、誰かを支えるために働いているわけではない。ビジネスをしている。」と、冷静に語りました。
だからこそ、自分の特性を理解し、必要なサポートをどうやって伝えるか、自分でも考えていくことが大切だと教えてくれました。

🟧自分で壁を乗り越えた先に見えた「インクルージョン」
中込さんは、当初多様な背景を持つ社員の一人として受け入れられている感覚がありつつも、周囲に配慮をもらっていることで申し訳なさを感じていたと言います。ですが、自分の仕事をしていくことで、周囲から仕事仲間として見られる感覚が得られるようになったと言います。職場で自分の仕事や役割を果たすことで、自分でも自分を認められるようになったと話します。
それは、誰かが用意してくれた「インクルージョン」ではなく、自分で努力し、自分で壁を乗り越えてつかみ取ったものであると堂々と話されていました。
「私もまだ挑戦者です。日々、不安はあります。でも、自分なりに向き合っていくことで、次の一歩が見えてくる」と語る姿に、多くの参加者が励まされたことと思います。
そして参加者に向けた「興味が変わっても、一貫性がなくても、本人がやりたいことを応援する。本人が決めたことなら、また立ち上がれると信じています。」というメッセージは、ご家族や支援者の方々にとっても、大切なヒントになるのではないでしょうか。
🟧まとめ:見守ること、信じること
中込さんの話を通じて、「自分の特性を知ること」「自分で選び取ること」「小さな成功体験を積み重ねること」がいかに大切か、あらためて感じさせられました。
また、母親の存在もとても大きかったということが伝わってきました。本人の選択を信じ、見守り、時にそっと寄り添ってくれたことで、「愚痴を言える場所」「逃げ場」があったといいます。
また、母親の存在もとても大きかったということが伝わってきました。本人の選択を信じ、見守り、時にそっと寄り添ってくれたことで、「愚痴を言える場所」「逃げ場」があったといいます。
中込さんについてはこちらもご覧ください↓
参加者ディスカッション:支援者として「どう関わるか」
ディスカッションでは、参加者同士が小グループに分かれ、それぞれの立場で感じたことや、現場での課題、支援の工夫について語り合いました。
多くのトピックが出ており、ここでは一部のみ紹介させていただきます。
多くのトピックが出ており、ここでは一部のみ紹介させていただきます。
大学関係者からは、多くの学生や新入社員に共通しているのは「自己肯定感の低さ」。大学では心理士への相談をすすめるケースが多いものの、それだけでは十分とは言えません。参加者からは、さまざまな世代や立場の人と関わりながら、「誰かの役に立てた」「できた」という小さな成功体験を積むことが、自己肯定感の回復には欠かせないという意見が出ました。
企業側からは、「強みは何ですか?」と尋ねるのではなく、「どんなことができた?」という問い方に変えることで、本人が自分に自信を持ちやすくなるという具体的な工夫も紹介されました。
企業側からは、「強みは何ですか?」と尋ねるのではなく、「どんなことができた?」という問い方に変えることで、本人が自分に自信を持ちやすくなるという具体的な工夫も紹介されました。
ご家族からは、「家庭内では子どもにどう声をかけたらいいかわからない」「親としての不安をどう整理すればいいのか」といった悩みが共有される場面もありました。しかし同時に、「本人が安心して選択できるよう、親も“見守る姿勢”を持つことが大切だと気づいた」という気づきもあったようです。

🟧ひとりで悩まず、つながりの中で進んでいく
7グループに分かれての意見交換でしたが、どのグループも話題がつきずに様々な事例や困りについての相談や意見、ノウハウ共有がされました。
キャリアは“選ぶもの”ですが、“選べる状態”をつくるのは周囲の大人の役割でもあります。支援者、保護者、そして企業がつながりながら、その人らしい選択ができるように、一緒に考えていけたらと思います。
クロージングメッセージ——「自分らしい未来を、ここからつくる」
セミナーの最後には、株式会社エンカレッジ 代表取締役・窪より、参加者の皆さま、そして今回のセミナーに企画・運営として関わってくださったすべての方々へ向けて、感謝とともに心のこもったメッセージが届けられました。
窪は冒頭、これまで行ってきたセミナーの積み重ねをふり返りながら、時代とともに障害者雇用のかたちも着実に多様化してきていることに触れました。だからこそ今、教育機関・家族・企業そして当事者それぞれが「いろんな選択肢を知ること」の重要性が高まっていると語ります。
窪は冒頭、これまで行ってきたセミナーの積み重ねをふり返りながら、時代とともに障害者雇用のかたちも着実に多様化してきていることに触れました。だからこそ今、教育機関・家族・企業そして当事者それぞれが「いろんな選択肢を知ること」の重要性が高まっていると語ります。
特に、今回のブルームバーグの発表に対しては、「一人ひとりの強みをどう見出し、どれだけの時間をかけて育んでいけるか。その軌跡が今日の発表にはしっかりと刻まれていた」とし、単なる雇用ではなく、「共に育つ関係性」こそが、真のインクルージョンに繋がるのだと強調しました。

そして、窪は昨年のセミナーでノベルティとして配布されたブルームバーグのロゴ入りノートを手に取りました。
彼はこの1年間、そのノートに仕事や出会いの中で感じたこと、考えたことを綴り続けてきたそうです。そして今日、このセミナーを迎えるまで、最後の1ページだけはずっと空けていたと語りました。今日のセミナーを迎えたことで最後のページが埋まり、1冊のノートが出来上がったそうです。
彼はこの1年間、そのノートに仕事や出会いの中で感じたこと、考えたことを綴り続けてきたそうです。そして今日、このセミナーを迎えるまで、最後の1ページだけはずっと空けていたと語りました。今日のセミナーを迎えたことで最後のページが埋まり、1冊のノートが出来上がったそうです。
ノートの表紙には、“Make It Happen Here”(ここで、実現しよう)という言葉が記されています。
「このページを使い終えた今日、また新しいノートを受け取り、来年の開催に向けて歩き始めたいと思います。」
そう語った窪の言葉に、会場全体が温かく、前向きな空気に包まれた瞬間でした。
最後に窪は、学生やお子さんたちが、これから社会の中で活躍を広げていくために、今日集まったすべての大人たちが手を取り合って支えていくことへの協力を呼びかけ、セミナーは幕を閉じました。
「このページを使い終えた今日、また新しいノートを受け取り、来年の開催に向けて歩き始めたいと思います。」
そう語った窪の言葉に、会場全体が温かく、前向きな空気に包まれた瞬間でした。
最後に窪は、学生やお子さんたちが、これから社会の中で活躍を広げていくために、今日集まったすべての大人たちが手を取り合って支えていくことへの協力を呼びかけ、セミナーは幕を閉じました。
窪が大学生支援を始めた理由についてはこちら↓
参加者の声
ご参加いただいた成蹊大学 キャリア支援センター 浅香様より、「中込さんのお話が本当に素晴らしかった。障害をただ“受け入れる”だけではなく、自分からチャレンジしていかなければいけないと思った」と感想をいただきました。企業の採用担当者が“働く意欲”を持った人を待っていると感じたそうで、「苦手だから避けるのではなく、もがきながらでも“得意な分野”で活躍できる可能性が見えた」と自らの考えを述べられました。
大学としては学生を守る立場でもあるけれど、社会の厳しさを見据えて、在学中から自己理解や壁を乗り越えるための支援を学生に促したいという思いも強くなったとのこと。「就活のフェーズに入ったとき、本当にやらざるを得ない状況になるから、今から準備させることが大事だ」と今後の支援についての考えをお聞きしました。
大学としては学生を守る立場でもあるけれど、社会の厳しさを見据えて、在学中から自己理解や壁を乗り越えるための支援を学生に促したいという思いも強くなったとのこと。「就活のフェーズに入ったとき、本当にやらざるを得ない状況になるから、今から準備させることが大事だ」と今後の支援についての考えをお聞きしました。
ご家族からは、「同じ立場の方のお話が聞けて、とても参考になった。特に当事者の方の実際の経験は、普段なかなか聞けないので視野が広がった。」とお話いただきました。また、パネルディスカッションや企業の話も印象深かったとのことです。
グループ討議では、「親として、どの程度努力を促すべきか」「どこまで見守って、どこで手を貸すか」という点で意見を交わしたそうです。
「周りと比べられることが多かったけれど、同じ障害を持つ人たちの中でも、“ここまでできた”という話を聞くと、可能性を信じられる気持ちが芽生える」とも。
企業の取り組みが本当に進んでいることを知り、「子どもに合った場所をゆっくり選んでほしい」という気持ちを強く持つようになったそうです。
グループ討議では、「親として、どの程度努力を促すべきか」「どこまで見守って、どこで手を貸すか」という点で意見を交わしたそうです。
「周りと比べられることが多かったけれど、同じ障害を持つ人たちの中でも、“ここまでできた”という話を聞くと、可能性を信じられる気持ちが芽生える」とも。
企業の取り組みが本当に進んでいることを知り、「子どもに合った場所をゆっくり選んでほしい」という気持ちを強く持つようになったそうです。

今後に向けて
本セミナーは、単なる情報提供の場ではなく、「対話」を通じて支援者・家族・企業・そして当事者が、互いの立場や気持ちを知る貴重な場となりました。
今後も、障害のある学生が「自分らしく働き、生きる」ために、大学、家庭、企業が連携し、選択肢を広げる支援の輪をさらに広げていけるよう、私たちはこの取り組みを継続していきます。
エンカレッジ早稲田駅前では、開かれた場所であり、企業・大学・支援機関・医療機関のみなさまとの協働で、ひとりひとりの就職活動を応援しています。
実際に、人事の方や一緒に働く方とお会いしてお話をすることで、職場の雰囲気を感じることができます。
どなたでもいつでも見学できますので、ぜひ覗きに来てください。



