障害のある方が、IT・プログラミング技術を活かして働くための取組を始めました

今後さらに深刻化するIT人材不足と多様な人材の活躍推進

最近では、様々な業界で人材不足が叫ばれています。その中でも、IT業界における人材不足が深刻化しており、2016年に経済産業省が取りまとめた「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査」によると、2019年をピークに人材供給は減少に転じ、今後ますますIT人材の不足数が拡大していくと言われています。
同調査の「IT人材の不足規模に関する予測」では、2030年には高位(悲観値)シナリオで79万人、低位(楽観値)シナリオでも41万人ものIT人材が不足する予測となっています。
このように、IT人材不足が今後より一層深刻化すると考えられる中で、IT人材の育成や確保に向けて取り組むべき内容の一つに、「より多様な人材(女性、シニア、外国人材)の活躍促進」が挙げられています。
その観点から考えると、障害のある方がIT技術などの専門性を活かして活躍できる場や機会が拡がることは、IT人材不足という社会課題の解決に寄与するだけでなく、障害のある方ご本人にとっても大きな意味があると思います。

障害のある方がIT・プログラミング技術を学ぶカリキュラム

エンカレッジでは、大学、専門学校を卒業した発達障害のある方が多数通所されていますが、大学でプログラミングを専門に学んできて、そのスキルを活かして就職したいご利用者や、今から学びたいご利用者がいらしたとしても、ITスキルを専門的に学べる機会を用意できていませんでした。
そこで、2019年6月より、「ロジサポ」というサービスを活用してプログラミングの専門講座をスタートしました。「ロジサポ」とは、NPO法人ロジカ・アカデミーが提供する、就労移行支援事業者向けのプログラミング教育カリキュラムです。子ども向けのプログラミング学習にも利用される分かりやすいビジュアルプログラミングからスタートし、プログラミング言語(Java)の基礎から実務レベルのスキルを身につけることができる、大手企業の研修等でも実施されているカリキュラムになります。

実際の受講の様子

受講の様子
 
今回、エンカレッジ京都に通うご利用者8名が、上記のプログラミング講座を受講されています。大学で専門的に学んだ方、実務を経験したことのある方など、皆さん何かしらITに関する知識やスキルをお持ちの方々です。

ご利用者の感想としては、
「できなかったことができるようになった喜びが大きい。これからも続けていきたい。」
「お手本を見て、できるようになった。考えて試行錯誤して、実際にできたら嬉しい。」
「チャットで担当者に質問しながら進めている。プロゼミ(※ロジサポで使用するアプリの名称)の内容は分かりやすくてよい。」

などの前向きな意見が多く聞かれました。

プロゼミは小学生用のプログラミング教育にも用いられているため、見た目が可愛く、わかりやすい作りになっているので、ゲーム感覚で学ばれています。
進度は人によって違いますが、分からない時は教え合い、キャラクターが面白い動きをしたときは「見てほしい!」と周りと自然にコミュニケーションを取っている姿を見ると、導入してよかったなと感じます。
皆さん共通した“得意なカテゴリー”を持っているからこそ、仲間意識が生まれ、認め合うことができているように思います。今後もお互いに切磋琢磨しながら成長してもらえると嬉しいですね。
また、今回の対象者以外のご利用者からも「参加したい」という声が出てきており、IT業界やプログラミングに興味をお持ちの方は多いのではないか、という印象も受けました。

今後の展望〜専門性を活かした新しい雇用の形

発達障害のある方の中には、在学中や社会に出てからIT・プログラミング技術を学んだにも関わらず、その能力を発揮して働けていない方も一定数おられます。
「就職活動がうまくいかなかった」、「仕事には就けたけど、環境に馴染めずに早期に退職してしまった」そのような経験をお持ちの方が、自分の“得意”を活かして社会に羽ばたいていける機会を今後も用意していきたいと思います。

さらに発展して、今後はIT系・技術系など、専門性を活かした雇用の形を模索していきたいと考えています。
現在の障害者雇用では、一定の配慮が受けられ働きやすさは整っているものの、専門性が評価される形の雇用は多くありません。そのため、専門的な知識・スキルを活かして働いていきたいと考える発達障害のある方にとっては、働きがいやキャリアアップの面で物足りなさを感じることもあります。
一方で、専門性を活かすために一般雇用での就職を目指そうとすると、社会性やコミュニケーション力などの観点から、なかなか採用されにくかったり、職場で配慮を受けにくいといった課題があります(図1参照)。
発達障害学生等の企業マッチングにおける課題
(図1:専門的に学んできた発達障害学生等の、企業マッチングにおける課題)
そこで、企業側には、障害者雇用であればより専門性を評価する仕事をつくっていただき、一般雇用であれば欧米のジョブ型雇用のように、専門性に特化した職種での募集や会社としての配慮という面で歩み寄っていただきながら、一方で、学生・求職者側には、自己理解の促進、社会性の習得や、企業側にお願いしたい配慮を見える化することにより、双方がマッチングできる機会を創出していきたいと考えています(図2参照)。
目指したいマッチングのための歩み寄り
(図2:目指したいマッチングのための歩み寄り)
エンカレッジでは、障害のある方の様々な就職マッチングの機会をつくっていくためにも、まずは上記のような絞り込んだテーマでの成功事例を積み上げていき、そこからより多くの方々へと機会を広げていきます。