働きづらさを抱えた方への就労支援の取り組みと今後の課題~ソーシャルファームの行方~

ソーシャルファーム」という言葉をご存知でしょうか?
2019年12月に、東京都議会で「ソーシャルファーム」の創設促進条例が成立し、業界内で少し話題になりましたので、 ご存知の方もいらっしゃるかと思います。今回はこの内容について見ていこうと思います。

ソーシャルファームとは?

ソーシャルファームとは、事業からの収入を主たる財源として運営しながら、就労に困難があると認められる者を相当数雇用し、その職場において、就労に困難があると認められる者が配慮を受けながら他の従業員と共に働いている企業のことを指します。
もともと、ソーシャルファームは、イタリアで始まり、現在はヨーロッパを中心に拡大しています。
障害者全般、刑務所出所者など一般の労働市場で就労が困難な人を対象に、一般の労働者と一緒に仕事をする組織として、ヨーロッパ全体で10,000社ほど設立されています。

ソーシャルファーム推進の背景~就労に困難さを抱える方々の存在~

就労に困難さを抱える方々として、障害者・難病患者・高齢者・母子家庭の母・引きこもりやニートの若者・刑務所出所者・ホームレスの方などが挙げられますが、この就労の困難さが「貧困」や「社会からの孤立・排除」の大きな要因の一つにもなっています。そこで、彼らの働く場としてのソーシャルファームに焦点を当て、推進していこうという考えです。
また、東京都とは別の動きですが、日本財団が、『WORK! DIVERSITY』として全ての働きづらさを抱えた方の就労支援に取り組んでいます。その中で、働きづらさを抱えた方は、1,500万人(全国民の8人に1人)いると見積もっています。
この数字だけを見ても、いかに対象者の範囲が幅広いかということがお分かりいただけるのではないでしょうか。

日本での働きづらさを抱えた方への就労支援の取組と課題

働きづらさを抱えた方々に対する就労支援の取り組みとして、最初に思い浮かぶのが障害者への就労支援です。
就労移行支援や就労継続支援などの就労支援の組織は、全国に約19,000ヶ所あります。
就労系障害福祉サービス図
 
また、企業に対しては、障害者雇用を後押しする障害者雇用率制度があり、社員の一定割合で障害者を雇用する義務が課されています。
その他の主な施策としては、平成27年に開始された生活困窮者自立支援法の中で、働きづらさを抱えた方々の就労に向けた困難度や就職に向けた準備段階において、各種の支援がなされています。
上記の通り、一部の領域においては取り組みが進んでいますが、その枠に当てはまらない就労困難者が数多くいるのも現実です。
例えば、難病患者・高齢者・母子家庭の母・引きこもりやニートの若者・刑務所出所者・ホームレスなど、多様な働きづらさを抱えた方々の存在があり、彼らに関する取り組みはまだまだ未開拓と言えるでしょう。
ソーシャルファームの取り組みは、このように多様な働きづらさを抱えた方の存在があり、彼らを区分するのではなく、包括的に支える仕組みが必要ではないかとの機運が高まってきていることが背景になっていると考えられます。

企業への支援策に加えて、見せ方・伝え方も重要

一方の企業側に目を向けると、人材不足と言われており、今までは採用してこなかった人材を活かしていこうという機運が高まっている点は、追い風です。
しかし、障害者雇用分野の雇用率制度のように企業への義務があるわけでもなく、サポートしてくれる機関もなく、多様な人材像へのイメージもないままに、企業が自発的に取り組んでいくことができるかは、まだまだ未知数です。
具体的な支援策がどのように整備されていくか?が今後のテーマになりそうです。
加えて、大切なのは、企業や対象者に対して、ソーシャルファームという取り組みをどのように伝えていくかが大切だと感じます。
企業は、人材不足だと頭ではわかっていますが、「就労に困難がある者」という言葉を聞くと、どうしても身構えてしまい、採用へのハードルも上がってしまう傾向にあります。
例えば、私たちが現在取り組んでいる、大学生と企業とをマッチングする「ダイバーシティ就活」の名称も、大学や行政の方には意義を理解されやすいのですが、当の学生や企業にとっては、身構えさせてしまう言葉になっており、見せ方・伝え方の大切さを痛感しています。
企業の能動的な取り組みを期待するのであれば、その取り組みを「どのように伝えるか?」もとても大切なポイントになるでしょう。

私たちが貢献できること

就労支援に関しては、障害者分野が最も歴史があり、多くの既存の社会資源があります。
少なくとも就労困難者の就労支援に関して、最もたくさんの資源や経験を積み上げてきているのは、障害者雇用分野だといって良さそうです。
したがって、障害者雇用に関わる私たちがどのように貢献できるのかは、今後大きなテーマになってくるのではないかと感じています。
東京都や日本財団が、障害者、生活困窮者、という風に対象を限定するのではなく、もっと大きなくくりでインクルーシブにとらえて主体的に進めていること自体は素晴らしいことだと考えています。
これから様々な議論があると思いますが、当面は今後の推移を見守りながら、私たちが貢献できる範囲を探していきたいと思います。
社長の独り言